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あの頃…それは小学4年生になる年の春。
父と母と3人で行った春祭りの日。
春祭りとは丘の上の広場で行われるこの地域の行事で、丘の上の豪邸に住む人々が主催している。
祭りと言っても屋台などはなく、キッチンカーで有名レストランがこの日のためだけに出店するのだ。
春祭りでは毎年、地元の小学校から合唱の出し物をプロのミュージシャンやパフォーマーに混じって披露する。
僕は初めて合唱のメンバーに立候補したのだ。
父の海外赴任が決まっていたから、父を驚かせたかった。
桜祭りには子どもが多く来る、でもその半分は知らない子なのだ。
彼らは私立の学校に通っていて、みんな外で泥だらけになって遊ばないような服を着ていた。
4年生にもなると、彼らがお金持ちの子どもで僕とは住む世界が違うことはわかっていた。
その中でも主催者席のテントに座る4人はオーラが違った。
僕はそのオーラに引き寄せられるように歌いながら彼らの方を見てしまったのだ。
その中の1人と目があって、僕は恥ずかしくてすぐに逸らしたけれど、その後もずっと彼が僕を見ているのは気が付かなかった。
あの時、目が合わなければ、舞台に立たなければ、立候補しなければ…。
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