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母が出国する日、累の家の車で空港までお見送りに行った。
母は「良かったわね、お友達と離れずに済んで。」そう言った。
だから僕は今までと何も変わらない生活を送れると思っていたのに。
「千紗は今日から俺のモノだ。」
この言葉を境に紳士的な態度だった累はいなくなった。
家に帰る暇もなく、都会のタワーマンションに着いた。
マンションの最上階がワンフロアごと部屋になっていた。
「ここが千紗の家だから、俺の許可なしに外出るなよ。」
その後は…。
僕は3年間自由がなかった。最初の1年はほとんど外に行かせて貰えなかった、もちろん学校も。
中学生の幼い考えでは賢い累の口車に乗せられて逃げ出そうという考えも起こらなかった。ただただ、累が怖くて怒らせたくなかった。それくらい身体に教え込まれた。
3年も経つと累は安心したのか、卒業式の日はわがままを言っても怒られなかった。
「自分で通学路を歩いて学校に行きたい。」
まさか上手くいくと思わなかった。
累も学校があったし、GPSを付けているから僕を1人にした。
僕はブレザーのボタンにGPSが付いているのを知っていた、だって1人になるのは学校にいる時だけだし、体育のある日は行かせてもらえなかった。初夏でも学校では肌を出すなと
ブレザーをギリギリまで着させられたし、夏になれば学校には行かせて貰えなかった。
だから僕は今まで話すなと言われていた友人に話しかけた。
「ずっと心配してくれてたよね、話せてなくてごめん。」
「千紗!よかった、中学3年間会話なしかと思ったぜ!」
「あのさ、高校も違うくなっちゃうからブレザー交換して欲しいなぁって。」
「おうおう!しようぜ!」
卒業式が始まる前に声をかけた、まさかその場で交換してくれるとは思わなくて、想像していたより早く逃げる準備が整った。
僕はトイレに行くフリをしてそのまま学校を飛び出した。
その後は父と母と暮らしていた家に行き、窓を破って家に入った。
まさか3年前のままにされているとは思わなかったが、電気もガスもそのままで少し埃は溜まっていたけど僕の部屋はあの時のままだった。
貯金箱からお金を出して、少し小さかったが服を着替えて、リュックに必要になりそうなものを詰め込んだ。保険証や母が僕用に作った通帳も全部残ったままだった。
そして変わっていない母の番号に電話をかけた。
母は久しぶりの僕の声に喜んでいた。
「累くんたちからしか手紙届かないから反抗期なのかと思ってた。」と。
累が思い込ませたのだろうと思ったが、母は累のことを好いているようだったから、僕は咄嗟に嘘を付いた。
「これ以上、累に甘えていたらダメだと思って累に内緒で部屋を借りたい。累に相談したら一人暮らしは許してくれても、高級マンション用意されそうでしょ?高校卒業した時に累に見合うようになりたいから、高校卒業まで内緒にしてて欲しい。」
母はこんなに必死な僕を知らなかったのだろう。とても驚いていたけど、僕の考えを理解してくれた。
そしてこの日が僕の人生最大のラッキーな日だったのか、母は僕の電話を新しい携帯に変える直前に受けたようだ。
新しい電話番号は僕から累に伝えると言ったため、累に母の新しい電話番号は伝わらなかった。
その後も上手くことが運び、僕は累に会うことなく一人暮らしを始め高校に入学することができた。
父と母とも毎日のように話すことができたし、これは累のおかげだがアルバイトをしなくても中学3年間、母が毎月振り込んでくれていたお金が手付かずで残っていた。
このまま、僕は大学に進学して就職して暮らしていけると思っていたのに。
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