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その日は雨が降っていた。窓の外から見える空には黒雲が立ち込め、景色は灰色のヴェールに閉ざされている。
重い空気に切れ目を入れたのは玄関のチャイムが鳴る音だった。目にかかる前髪を払い除け、玄関に向かう。
「猫は?」
ドアを開けると果たしてそこには三白眼で俺を睨みつけている奴が立っていた。きっと急いできたのだろう。荒い息遣いで開口一番尋ねる姿に思わず俺は吹き出した。
「そんなに猫、好きなのか」
「――と、いうより……。」
「というより?」
「い、や。なんでもない。」
例の吊った三白眼をついと逸して、広毅は言葉を濁す。
「素直じゃねえな。いい加減認めろよ」
「うるせえ黙れ」
肘を軽く小突くと、俺は腰に思い切り回し蹴りを食らってしまった。
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