3人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい! 拓真、何してんの?」
少しかすれた声に顔を上げると一重の三白眼が俺を睨んでいた。――睨んではいないのだろうが。
彼――広毅の吊った一重の目、しかも三白眼――は、意図がなくても常に相手を睨みつけているように見える。クラスの中心的な存在だが、眉にかかるくらいの短い前髪ときつい物言いで、初めて同じクラスになった時は多少なりとも怖気づいた。
「俺の猫、車、轢かれて、そんで運転手逃げて。今日母さんも仕事、家にいない。こはくが死ぬ、嫌だ嫌だ嫌だ誰か助けて」
自分でも支離滅裂な日本語になっていると思う。どうせ広毅のことだ。馬鹿、知るかそんなの。そう言って踵を返すのだろう。しかし――。
「ちょっと待ってろ、今母さん呼んでくる!」
一瞬雷に打たれたような顔をして、広毅はものすごい速さでマンションのエントランスへ走り去った。
広毅たちはすぐに戻ってきた。俺がたどたどしい説明をすると、広毅のお母さんは顔色を変えた。
「動物病院へ行くわよ。あなたもついてきなさい」
目元が広毅によく似ていて少しきつい印象を受けたが、他人の猫なんかのためにここまでしてくれるのだ。根は優しい人なのだろう。
――ならば、あいつも根は優しいのだろうか? 一瞬そんなことが頭に浮かんだが、ありえないとすぐに打ち消す。先日も廊下を歩いていたら広毅が投げたカイロが目の前をかすめたところだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!