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伝説はすぐそばに
ジュンの頭は混乱していた。ここは、ゴーガトン。伝説の武器屋。自分を助けたのは、あの自分が憧れた竜狩りのガザンだと言う。にわかには信じられなかった。だが、次々と語られる事実に押しつぶされていく。
「俺たちは、四人で活動していた。一人はエルフ。一人はドワーフ。幼馴染みの女に、そして俺。俺たちは最高の仲間だった。全てが調和し、俺たち4人で依頼を受ければ、どんな依頼も達成出来るってな」
「やめて。もう聞きたくない!」
「いや、聞け! お前が目指していた冒険者の成れの果てを」
そう言って、男は再び語り出す。
男の目に光が宿っていく。
「ある時、依頼を受けた。お前が言っていた奴だ。ドラゴン。俺たちが戦ったのは、硬い皮膚に体色は赤。火を吹くような凶暴な奴。俺たちには、勝機があった。これまでの冒険が俺たちを強くしていた」
男は部屋にあった樽の中から剣を一本取り出し抜く。杖を一度手放し。ふらつくが、陶酔したように気にはしていない。手入れは常に行っていたのか、錆は見られない。今でも輝きを放っていた。
「剣は、人や魔物を殺す道具だ。より早く、深く、傷つくように。そして盾は仲間や己自身を魔物や人から守る為にある」
男は、剣をもう一度しまい、立てかけてあった大きな盾を手に取る。金属製で、ジュンには恐らく持てない。だが、男は軽々とそれを左手で持った。
「剣は深く竜を傷つけた。盾は、奴の牙とその炎から身を守った。全てが万全だった。俺たちは、一つルールを持っていた。待ち合わせは、ゴーガトン。それが、俺たちの約束だと」
「それって」
「ああ、本来は俺たちだけの合言葉のような物だった。そして、他の冒険者に聞かれれば必ずこう答える。ゴーガトンは、品の良い武器屋だと」
「それが噂の元に?」
「多分な。実際は、この森に構えた俺たちだけの家だよ。ここに、俺たちの宝。冒険の証を置いていく。それはたまらなく素敵なことだった」
ガザンは視線を下に降ろす。
「俺を残してあいつらは死んだ。町の奴らは、名誉の死だといった。だが、俺にはもうその時は竜狩りの名誉なんて要らなかった。お前にも分かるだろ?」
「分かるよ……僕も友達が死んだら耐えられない」
ジュンの主語は、昔に戻ってしまっていた。あの頃の彼に。
「冒険者は確かに素敵さ。良い事もある。だが、失うものもある」
「でも、僕はあなたじゃない」
ジュンの言葉に、ガザンは眩しいものを見るように目を細める。
「そうだな。いや、確かにそうだ。俺もそうだ。焼きつくような衝撃と衝動が、冒険者を突き動かす。お前もそうだろ。お金を稼ぐ手段で、冒険者が浮かんだのはそれが理由のはずだ」
ジュンは過去を思い返す。孤児園で語られる伝説。出来上がっていく冒険者への憧れ。胸を突き動かす衝動。
「うん、確かに。そうだ」
確かめるように、ジュンは呟く。
「久しぶりに思い出したよ。あの幸せな日々を……」
「大丈夫?」
ガザンは下を向き、目を隠すように左手を顔にやる。
「ねぇ、僕に冒険者について教えてよ」
「俺に師匠になれと?」
「僕は冒険者になるよ。貴方のような素敵な仲間を見つけて」
ガザンは彼の発言に、低く、優しく、ふっと笑った。
そして、こうもいった。
「なら、俺に教えを請うな。お前の冒険に混じり物は必要ない。だが、俺はお前に投資してやる」
そういって、彼は蜘蛛の巣が張っていた棚から一袋取り出す。
「これで、当分は何とかなるだろう。金をやる。そして、お前に武器をやる」
「本当?」
「ああ、本当さ」
「だが、一つ約束しろ」
「何を?」
ガザンは蜘蛛の巣がかかっていた絵を手に取る。手に取った事で、部屋に埃がまった。それは、4人人物が描かれていた。
「俺が生きている内は死ぬな。約束出来るか?」
「うん。俺は、強くなるからね」
「そうか」
これは、生涯守られる約束になった。
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