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勾留所に現れた織田は、日高の死亡推定時刻は朝方の2時~3時の間で、その時間、萌々香のアリバイは住宅地に設置されている防犯カメラ、また、自宅の車庫と玄関を映しているカメラを照合した末に矛盾がないことなどから、萌々香が容疑者から外れたということを報告してくれた。
「じゃあ、帰れるんですか」
「ええ、構いません。捜査にご協力いただき、ありがとうございました」
織田は表情を凍らせたまま、萌々香に頭を下げた。
「警察車両で送りますか?それともどなたかーー」
「あの人は……」
萌々香は織田の言葉を遮った。
「あの、鑑識のお姉さんは、大丈夫ですか?」
萌々香は、自分の指紋採取をしてくれた、泣きはらしたように痛々しく目を腫らした鑑識の女性を思い出しながら言った。
「……ええ。まあ。相当ショックだったみたいですけど。日高さんと昔からの知り合いだったそうなので」
「―――――」
萌々香は女性の悲しそうな顔を思い出して小さく息をついた。
あの軽そうな刑事、日高が殺された。
それだけでもまだ信じられないのに、その犯人として八雲が逮捕されるなんて。
日高は人に殺されなきゃいけないような恨みをかったのだろうか。
しかしこれだけはわかる。
八雲は人を殺したりしない。
「社長は……?」
「………残念ながら」
織田は顔をしかめた。
「まだ取り調べが続いています。
「織田さん。社長は殺人なんてできる人じゃないですよ!?
「前城さんの気持ちはわかるのですが。我々はまだ、彼が犯人じゃないという証拠を掴んでいません」
織田が歯切れ悪く答えた。
「それに八雲さん本人が、黙秘を貫いているもので」
「黙秘……?」
「ええ。つまりは、八雲さんが犯人だという確固たる証拠はない。しかし彼が犯人であり得ないというゆるぎない証拠もまた、見つかっていない。さらに彼自信が黙秘となると、お手上げです」
織田は眉間に深い皺を寄せたまま言った。
八雲が人を殺すわけなんてない。
しかも相手はあの日高だ。
絶対におかしい。
それなのに、
なぜ警察に弁解しない?
もしかして、
警察に話せない……?
「……会うことはできないんですか?」
萌々香は顔を上げた。
警察に話せないなら、自分にはあるいは……。
「法律で勾留後3日間は誰とも面会できないことになっています。しかも今回は殺人事件の容疑者ですから、余計にその判断は厳しく、会えたとして家族と弁護士に限られます」
「そう……ですか」
萌々香はシュンとなり、余計に身長が縮んだ気がした。
「じゃあ、行きましょうか」
織田は、看守に目配せしながら萌々香を廊下に連れ出した。
視線を走らせる。
出入口とは反対方向の廊下の突き当りにドアがある。
「あっちが男子の部屋ですか?」
「……ええ、まあ」
織田が困ったように頷く。
―――あの向こうに社長が……。
萌々香はそのドアをもう一度睨むと、織田に続いて歩き出した。
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