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◆◆◆◆
家に着いた。
萌々香は小林に礼を言い、はた目から見れば警察車両とわからないセダンを見送った。
湿った風が通り抜ける。
もうすぐ雨が降りそうだ。
萌々香はオレンジ色に翳り始めた空を見上げた。
八雲は犯人じゃない。
でも警察に勾留しているあの場所じゃそれを言えない。
なら―――。
―――私が話を聞いてくるしかない。
萌々香はぐっと拳を握った。
その時―――。
「萌々香。そんなところで何をしている」
振り返ると、玄関のドアを開けた父親が立っていた。
――なんでこんな時間に……?
「気温が下がってきたから早く家の中に入りなさい」
「――――」
萌々香は身体を硬直させた。
「ほら。早く」
父親の目が笑っていない。
「そういえば、昼に用があって連絡したんだが、折り返しがなかったな」
「―――え?あ……」
慌ててバッグから携帯電話を取り出した。
【着信 21件】
その数に背筋が凍る。
「心配で会社にも電話した。平日だから営業中のはずだよな?兎沢探偵事務所は。それなのに誰も出なかった」
「それは……きっとみんなそれどころじゃなかったからで……」
「事務所の住所に行ってみた。そうしたら、あからさまな風俗街に、尺八探偵事務所なんて書いてある風俗店を見つけた」
「いや、それは看板の塗料が……」
「話はーーー」
父親はドアを開け放った。
「なかでじっくり聞く」
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