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「つまり、俺の殺人を依頼したのは、俺自身だった、ってことですよ」
日高は鼻で笑いながら女を見下ろした。
「わかっていただけましたか?逢束町警察署、小林総務課長?」
小林は悔しそうに日高を睨み上げた。
「これまでの捜査で、警察に内通者がいるということはほぼ確実でした。さらには先週の温泉街の民宿で起こった事件でもーーー」
「あの事件は!執行人Xの犯行ではなかったと結論づいたはずでしょ?」
女は日高の言葉を遮った。
「そうですよ。ただし、犯行は、ね?」
日高は薄く笑いながら言った。
「女子高生たちがおふざけで入力した“依頼”は“有効”だった。だからあの日、既存事件の例に漏れず2時から3時の間に、執行人Xは高校教師である佐々木を殺しに来た。しかしすでに彼が死んでいるのを見つけ、慌てて逃げ出したんだ」
「――――」
「防犯カメラに映っていた、黒づくめの男。警察の決死の捜査の末、やっと見つけたよ」
日高は胸元から写真を取り出した。
「安藤和正。温泉街に住む大学生だった」
「――――!」
小林の顔が歪む。
「匿名サイトで連絡を取り合っていたのが仇になったなあ?あんたたちは知らなかったんだ。どこの誰が執行人Xに殺人を予告しているかを。だから男が逮捕されたことも知らなかった」
「…………」
小林は悔しそうに日高を見上げた。
「聞けば、被害者の佐々木はおろか、あの民宿とも何の接点もない男だ。それなのになぜ執行人Xとして、殺しに行ったか」
「――――」
日高はその写真をポケットにも戻しながら言った。
「執行人Xは、殺人依頼サイトじゃない。交換殺人斡旋サイトだ」
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