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「Aさんがいるとする。AさんはBさんに、殺したいほどの恨みを持っている。しかしBさんが誰かに殺されてしまったら、真っ先に疑われるのは動機のあるAさんだ。『あーあ、誰か殺してくんねえかな』それを執行人Xが始末してくれる」
「そんな都合のいい殺人、あるわけないでしょ?」
女はふっと笑って言った。
「それが、あるんだなー」
振り返ると、格子の向こう側に八雲が立っていた。
「執行人Xに依頼した者には、一定期間を置いてXからこんなメッセージが届く。
『さて、あなた様の依頼は執行させていただきました。つきましては、今度はあなたが実行犯として殺していただきます。実行期限は3年間とします』
「つまりは―――。こっちも殺してやったんだから、お前も3年間の内、1件は決めろよってことだ」
八雲は鼻で笑いながら小林を見下ろした。
「事件によっては―――」
日高が会話を引き継ぐ。
「実行犯を数人に分けることもあるようだ。つまり今回で言えば―――」
日高は八雲の隣の勾留室を開けた。
「日高刑事の動向を調べる即席大学生」
中から気まずそうな岡本が出てきた。
「探偵事務所からでてきたこいつを、うちの職員が運転するタクシーに乗せて、そのまま警察署に送ってやった」
八雲がクククと笑う。
「それから、岡本から連絡を受けた実行犯」
見覚えのない中年の男が出てきた。
「―――ま、酒に薬が入っていたとしても、こんなやつに負ける気はしないけどな」
日高は男の細い身体を見て笑った。
「ということだ。さあ、そろそろ観念してもらおうか」
「―――ふっ」
小林は、正面の日高、その脇にいるやけに小柄な看守、そして後ろの立っている八雲を順番に見つめた。
「黙秘権を行使するわ」
「―――だってさ」
日高は笑いながらその小柄な看守を振り返った。
「約束通り、ミケちゃんは出ててね?」
「あ、はい!」
「――――!」
よく見るとその小柄な看守は、さきほど自分が家まで送り届けた前城萌々香だった。
「……ちょっとあなた!」
「あんたの相手はこっち」
小林肩に八雲の手が触れた。
「―――!!」
いつの間にか格子の鍵は外され、廊下に出てきた八雲は小林の腰を引き寄せると、
「―――いつまで黙秘できるか、見ものだな?」
耳元で低い声を出した。
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