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お父さんの言葉にどこからともなく拍手が鳴り始め、ついには教室にいる全員が拍手をしていた。
「卒業おめでとう、春日さん」
「おめでとう!」
教室内におめでとうの声が飛び交う。おめでとう、卒業おめでとう……。
みんなの視線がお父さんに集まる中、先生だけが私を見ていた。
「おめでとう、春日。今日で卒業だな」
そうだ。私は治療の甲斐なく病院で息を引き取ったのだ。でも悔しくて、思い残す事があり過ぎて、再び教室に戻って来たのだ。
でもみんなと一緒の教室で過ごす事ができた。先生にだけは私が見えた。勉強や色んな事を教えてもらった。
もう十分だ。お母さんもお父さんも嬉しそう。クラスのみんなも祝ってくれている。
先生の言う通りだ。この両親の元に私は望んで生まれてきたのだ。立派なお父さん。凄く誇らしい。そして優しいお母さん。私のためにたくさん涙を流してくれた。私の旅立ちをこんなにもドラマティックにしてくれた。だから私は満足して卒業できる。もう思い残す事は何もない。
「先生ありがとう。凄く樂しかった」
「良かったな」
「うん。ありがとう……」
校庭の桜はまだ蕾のはずなのに、私の周りには花吹雪が舞っている。桃色の花びらに包まれ、私は空へ吸い込まれて行くのだった。
〈終〉
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