ひとり花吹雪

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「ちょっと、恥ずかしいじゃん。後ろにいてよ」  私の言葉など無視してお母さんとお父さんは前に進んだ。 「ちょっと、ちょっと!」  先生は私の名前を読み上げ証書をお父さんに渡した。お父さんの手は震えていた。お母さんは人目も憚らず泣きじゃくっていた。 「それ私が貰うんだから! 私が先生から貰うんだから!」  私の声など聞こえていないかのようにお父さんは先生に深くお辞儀をした。 「本日は卒業証書を用意して下さってありがとうございます。頂けるとは思っていなかったのでとても嬉しいです」  お父さんの目にも涙が光っていた。そしてお父さんは振り返り、生徒たちに向かって話し始めた。 「1年間だけのクラスメートのために、ずっと席を残しておいて下さってありがとうございました。きっと娘も喜んでいる事でしょう。娘の事を忘れないでいてくれてありがとうございました。娘もこのクラスの1人として卒業する事ができました。 皆さんはこれから大学や社会へ旅立って行きます。くれぐれも健康には気をつけて下さい。健康でいる事が最大の親孝行です。いや、病気になったら思い切り親に甘えて下さい。それも親孝行です。 健康だろうと病気だろうと、生きていようと死んでいようと……子どもは親にとっては宝物なのです……」
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