名も無き猫の最後

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 死神と死神――、同種であれど役割はまるで異なる。唯一共に事を成す時と言えば、孤独死により命を絶った老人や自殺者。人の魂は人の死神が持ち去り、その者達が飼育していたペットの餓死となる行く末を案じ、動物の魂は動物の死神が現れ連れ去る時だけだ。ところが今は状況が異なる。 「どうして貴様がここにいる。あの血に染まりし奇妙な野良猫は、まだ寿命は残され死しておらん。見るからに人間との接点は皆無」 「仰せの通りでございます。あの猫はまだ生きているどころか、あの血は人間のもの故、死ぬにはまだ早い」  辻褄(つじつま)の合わない話の結末に人の死神は背を向け立ち去ろうとした時、再び大きな声が響く。 「あの猫は人間の血を浴び身代わりを(てい)しております」 「……」 「そなたが迎えし少年の魂。その身代わりとして自らの命を差し出す。散り行く命、散り行く花と共に身を捧げ、生き血を全身にまとう行動こそがその証」 「フッ……、馬鹿な――。 たかが一人の人間の命を救うために身寄りのない野良猫が命を捧げるだと?」  動物の死神は小さく頷き、野良猫の魂を連れてゆく故に、このままお引き取り願いたいと告げた。  ピクリとも動く事の無い野良猫。まるで飼い主に従順に従うように我が身を捧げる。その奇妙な姿と、動物の死神が告げた言葉の真意を確かめるべく死神は地上に降り立ちそっと横たわる野良猫の頭部に手をかざした。
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