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1話 古書店andante
ぱら、とページを捲る音が静かな部屋に響く。朝と呼ぶには少し遅い時間の読書は至高だ。おまけにデスクには良い匂いのする珈琲。完璧だ。そう思っていた時だ。
「きゃーーっ」
響く悲鳴に顔を上げた。ついでどすんどすんと重い物が落ちる音。
「……ふう」
ニコラスは読んでいた本をデスクに置き、立ち上がった。声の主の居場所は大体分かっている。少し急な階段を降りて、三つあるうちの扉を一つ開く。
そこにはぎっしりと本が詰め込まれた図書室のようなところだった。
大量の本棚には収まりきらない本がそこかしこに詰まれ、通路は人ひとりがやっと通れる程度のものが一本だけ。そこに、エキセントリックな色彩の少女がいた。
……沢山の本に押し潰され、ひっくり返った状態で。
「に、ニコラスさぁん……」
「リディア、また派手にやったね」
ピンク色のわたがしのような髪が床に広がっている。着ているドレスは赤を基調としたものだ。
「すみません」
彼女の声は甘く上ずっている。空色のうるうるとした瞳は助けを訴えていて、ニコラスは彼女の上に乗った本を1つずつのけてやった。
彼女が倒しそうな場所には新しめの本しか置いていなかったので、本が壊れる心配はない。それでも一応「気をつけてね」と言った。本当に一応だが。
何せ彼女はかなりのうっかり者で、1日に一度は転ぶし皿を割るし本を倒す。それ以外はいたって優秀な従業員なのだが……。
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