2話 華麗な来客

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2話 華麗な来客

もっともこれにはニコラスにも問題がある。安普請のこの家は敷地が狭く、とてもではないが蔵書のすべてを棚に収めることができない。 そのため床に積み上げた状態となり、掃除をするリディアがうっかり倒してしまうというわけだった。 (けど、引っ越すのも手間だしなあ) それに、ニコラスはこの場所が気に入っている。ずっと前にここに決めたのには特に理由はなかったが、十年も住んでいれば愛着が湧く。ペンキの剥げかかった緑色のドア、錆びついて低い音を出す来訪者用のベル。その扉についた窓から差し込む光が通路を照らす光景。それらが好きなので、中々移動する気になれない。 階段でリディアがいつか転げ落ちるんじゃないかは心配ではあるのだが、ひとまず彼女はここ数年一度も落ちたことはない。これから先もそうであってほしい。 リディアの崩した本を綺麗に積み直し、上から本を取ってきて隅の方にある小さな椅子に腰かける。今度はこちらで読書をする気分になったからだ。リディアはその間もせっせとハタキで本の埃をはたいていた。 毎日毎日よく飽きないものだ。彼女が来る以前は店というよりは蔵のようだったここは、すっかり空気が綺麗になった。 彼女の鼻歌を聞きながら本に目を落としていた時だった。 ガランゴロン、と錆びたベルの音がする。入ってきたのは、薄銀色の髪に菫色の瞳をした少女だった。 (珍しい) この店に客が来るなんて、と店主にしては情けないことを思う。しかしこれは事実なので仕方がない。 「いらっしゃいませ!」 三日ぶりの客が嬉しかったのか、リディアが元気よく挨拶をする。少女の身なりは豪奢なものだったが、どこか古めかしく、不思議と貴族には見えなかった。 どちらかというと異国の王女といった風情を感じる。 少女は狭い店内を見回すと、隅にいるニコラスに目を留めた。 「……お前がニコラス? ニコラス・ケイか?」 「え? はあ……確かに僕はニコラスですが」 「相談に乗ってほしい」 彼女は端正な顔の眉根を寄せてそう口にした。いかにも不服だと言わんばかりだ。貴族かはともかく、気位が高そうだというニコラスの所見は恐らく間違ってはいまい。 彼女はつんと顎を持ち上げて言った。 「私の友人を助けてくれ」
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