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5話 依頼への答え
ニコラスははあ、と溜息をついた。
(僕は古書店の店長なんだって)
何故だかニコラスには昔から厄介ごとを引き寄せる癖があった。そのせいで王宮に召し抱えられたり攻略者として迷宮の最前線に赴いたり、様々な苦難を味わってきたのだ。
人はそれを栄達と呼ぶだろうが、ニコラスの場合は違った。彼の望みはただ「寝ている間以外はずっと本を読んでいること」だけであった。
その癖のせいか、念願かなって本に囲まれる暮らしを始めてからも、年に何度かはこうして厄介ごとを持ち込まれる。だがニコラスは天性のお人好しでもあったためそれらをはねつけることも出来ず、結局は引き受けてしまうのだった。
(もしかすると利になるかもしれないし)
ニコラスはたっぷり間を溜めてから言った。
「……分かりました。しかし、どうお力添えすればいいんです? その魔物を殺せばいいんですか?」
「…………お前に殺せるのか」
「さあ、それは分かりませんけどね」
エドナの表情は張り詰めていた。ニコラスは曖昧に返事をして立ち上がる。
「リディア、出掛ける準備をしなさい」
「私もいいんですか!」
リディアが嬉しそうにぴょんと跳ねた。危険な場所に赴くのにその態度でいいのかとは思う。
(まあ、絶対に怪我はしないからいいか……)
喜ぶ少女と対照的に、エドナは不機嫌になった。
「小娘も連れていくのか」
「この子は貴方の護衛役です。心配せずとも、お役に立ちますよ」
そう言えば、分かりやすく不機嫌になるエドナ。自分が軽視されたのだと思ったのだろう。
「私を愚弄しているのか」
「まさか。けれど、万一にも依頼人に死なれたら寝覚めが悪い」
ニコラスは軽く躱して自室に向かい、本棚から数冊の本を取り出した。そしてそれに空間魔法をかける。
「……」
ニコラスが触れた本が、空に現れた闇にずぶずぶと沈んでいった。五冊ほどの本を仕舞い終えると、白いローブを羽織って部屋を出る。
「じゃあ行きましょうか」
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