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8話 封印獣との対面
やがて立ち止まったのは、何の変哲もない行き止まりの岩壁だった。エドナがそこに手を当てると、岩壁のはずのそこに手が入りこむ。
「幻影……」
こうやって隠し部屋の入り口には、それと分からないように細工がしてあることが多い。
「ああ、この先だ、っ」
「エドナさん!」
再びよろけたエドナをリディアが支えた。彼女の腕を掴んだまま、リディアはニコラスに頷く。ニコラスはそれの意味を正しくくみ取った。
「先に行かせてもらうよ。エドナさんをゆっくり連れてきてくれ」
「ああ……もう、直ぐその先だ……」
エドナの声は何かに耐えているようだった。しかしただ苦痛に悶えているというよりは、高揚を必死に抑えているような、そんな気配があった。
ニコラスは道を進む。すると遠くから小さく音が聞こえてきた。もう戦闘は始まっているらしい。
「まずいな」
舌打ちしたニコラスは駆け出した。その先にある大扉を開くと、丁度大槍が、一人の青年を貫こうとしているところだった。青年の剣は折れ、姿勢を大きく崩している。
「!」
ニコラスは空間魔法で即座に本を取り出す。本はニコラスが持たずとも彼の周りを漂った。青年を囲む光の障壁ができる。
「……間に合った、かな」
槍が大きく弾かれ、封印獣が体勢を崩した。ニコラスはその姿にやはりか、と自分の勘が当たったことを知る。
青年がニコラスを振り返った。
「きみは……?」
「貴方がアズさんですね、下がっていてください」
「どうしてここに」
呆けている男は、いかにも気の良い優男といった風貌だった。その顔と同じく気質も素直らしく、彼はすぐに後ろに下がる。ニコラスは手を自分の体の前で振ってまた光の障壁を張った。
「……また、人間風情が来たのか」
「どうも、お邪魔してますよ。長い眠りを妨げて怒っていらっしゃる?」
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