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君と出会った日
今日も普段通り振る舞えたはず...
僕は最近医師にこう言われた。
「貴方はもういつ死んでもおかしくない状態です。今できること、やりたいことはやっておいた方がいいでしょう。」
知ってた。最近ずっと調子が悪かった。
倦怠感、高熱、動悸、頭痛、痣。
白血病らしい。僕は長く生きられないと言われたとき、特にこれといってやりたいことは思いつかなかった。僕は普段通りの生活ができればそれでいい。
それだけだ。
「母さん、散歩のついでにコンビニ行って来る。」
「うん...気をつけてね。」
母は医師の診断を聞いてからもあまり態度は変わらなかった。元々母は少し冷たい人だったが、今態度が変わっていないのは多分母親なりの優しさだろう。変に気を使って僕の不安を煽らないように。
コンビニに着くと窓から零れる光とともに、外から雑誌コーナーに居るあの小日向さんが見えた。
「うわ...」
思わず声に出てしまった。僕はプライベートで学校の人に会うのが苦手だ。それはプライベートを邪魔されたくないという理由もあるが、話しかけてくる陽キャのノリが嫌いだからでもある。ましてやあの小日向さんだ。学校の人にもし見られでもしたら何を噂されるか分からない。でもそれを理由に家に帰るのも癪だ。知らないフリをして雑誌コーナーに行こう。読み進めていると少しして小日向さんが口を開いた。
「あっ。成瀬.........」
「蓮。成瀬 蓮。」
「そう!成瀬 蓮君!」
小日向さんはそう言ってニコニコしている。
不思議だ。僕が嫌いな陽キャのはずなのに、小日向さんは何故か嫌じゃない気がする。
「こんな時間に何してるんですか?わざわざ立ち読みしにきたんですか?」
「まさか(笑)散歩がてら少し寄っただけだよ。蓮君こそ、こんな時間に何してるの?」
「僕も小日向さんと同じですよ。」
「奇遇だね〜。てゆうか何で蓮君さっきから敬語なの?(笑)全然タメ口でいいのに〜...」
「まず話したことがなかったのでとりあえず敬語からかなと思いまして.........わ...分かった!分かったから!その目やめて...」
小日向さんの純粋で一点の曇りない目に見つめられたら逆らえなかった。
「うん!蓮君そっちの方がいいよ。」
「ありがとう...?」
「............いきなりなんだけどさ最近僕、医師に貴方はもういつ死んでもおかしくないでしょう。って言われたんだよね...」
「えっ...?それ本当...なの?」
僕は何も言わずにコクリと頷いた。何故それをついさっき知り合った人に言っているのだろう。それは僕にも分からなかった。でも小日向さんなら言ってしまっても大丈夫な気がしたんだと思う。
「......じゃあさ、最後に私と一緒に蓮君の最高の思い出作ろうよ!」
「え...?あ...うん?」
「OK!じゃあまずLINE交換しよ?それから蓮君のやってみたいこと、やりたいことトップ3 私と一緒にやっていこうよ!」
「あっうん。ありがとう...小日向さん」
「音羽でいいよ。じゃあスマホ出して!」
「うん。」
それから音羽は慣れた手つきで僕の連絡先を追加した。 ピロン。 それから僕のスマホにも音羽の連絡先が追加された音がした。
僕は音羽と一緒にコンビニを出た。ふと上を見上げた瞬間息を呑んだ。手を伸ばせば届きそう
とはまさにこの空を意味するかのようだった。隣に居た音羽は息をするように瞬きを繰り返している。そうして少し立ち尽くしていると、音羽がこう一言言葉を発した。
「星が綺麗ですね。」
何を返そうか迷ったから、結局反応しなかった。
「さっ帰ろ。音羽の親も心配するよ。」
「うん...」
途中まで一緒に帰ってそれでいていた音羽の顔はどこか寂しいような、呆れたような、嬉しいような顔をしていた気がする。
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