737人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
ファーストキスの味はほろ苦いコーヒーの味がした。
唇を離すと、黒い瞳が丸くなっていた。
「ひ、妃奈子さん」
三田村君の驚いた顔、可愛い。
とんでもない事をした自覚はあるけど、それ程気にならない。
「言っておくけど、今の私のファーストキスだからね。34年間取っておいたんだからね」
なんて恥ずかしい事をカミングアウトしているんだろう。
三田村君が困ったように眉間の間にシワをつくる。
「俺の事、忠犬だと思って手を出すと噛み付く事もありますからね」
「噛みつく? お行儀のいい三田村君が噛みつく事があるの?」
ケラケラ笑うと三田村君が「もう、この酔っ払いが」と呟いた。
そんな三田村君が可笑しい。あはは。なんか楽しくなって来た。
「妃奈子さん」
笑っていると、いきなり肩を掴まれて、ベッドに押し倒された。
目が合うと、三田村君が切なそうに微笑んだ。
「俺だって忠犬じゃいられなくなる時があるんです。俺がどれだけ我慢しているか知っていますか?」
我慢している?
何を?
「妃奈子さんは意地悪な人だ」
三田村君の表情がだんだん深刻なものに変わっていく。
もしかして、さっきのキスが嫌だった?
「三田村君、ごめん。そんなに嫌だった? もう二度としないから許して」
「何の事です?」
「だから、その、さっきの……キス」
「二度としないのは嫌です」
「えっ」
端正な顔が近づいて来て、今度は私の言葉を三田村君の唇が吸い取った。
三田村君がくれるキスは甘くて、切なくて、気持ちいい。
最初のコメントを投稿しよう!