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「綾子さん、今は仕事中ですので」
三田村君が困ったように微笑む。
綾子さんだなんて、下の名前で呼ぶ程、親しい間柄なんだ。
「久しぶりに連絡して来て、会いたいと言ったのは勇人様の方からなのに。私、あの時、勇人様に合わせて時間を作ったのよ」
三田村君の方から会いたいって言ったんだ……。
なんか面白くない。
「今日は勇人様が私に合わせて下さい。ほんの5分でいいですから」
綾子さんが三田村君の腕を掴んだ。
綾子さんは何だか必死に見える。どういう事情がある人なんだろう。
綾子さんのまつ毛の長い大きな目と合った瞬間、お願いしますというように頭を下げられた。
この場は私が引いた方が良さそう。
「三田村君、私、そこのティーラウンジで紅茶飲んでるから。彼女の話を聞いてあげて」
ロビーの脇にティーラウンジがあり、視界に入りやすい場所だった。
「妃奈子さん、しかし」
「大丈夫。あそこなら見えるでしょ?」
「そうですが」
「何かあったら叫ぶから。じゃあ」
三田村君の心配そうな視線を背中に受けて、ティーラウンジに向かった。
カウンター席に腰を下ろして、居場所を教える為、三田村君に手を振る。
三田村君は頷いて、私に視線を向けながら、綾子さんと話し始めた。
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