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「妃奈子さん、奇遇だね」と言って、浅羽は自然な動作で私の隣に腰を下ろした。友美のカフェで会ってから一週間ぶりだ。まさかこんな所で会うとは思わなかった。
でも、今日はタイミングが良かったかも。
一人でいるよりも浅羽といる方が私を狙っている人も手を出せないはず。実は少し一人になった事が心細かった。
こっちに視線を向ける三田村君が来ようとしたけど、大丈夫だと手で合図を送った。
「浅羽さん、隣に座るのはいいけど、私に触れないように。吐くわよ」
睨むと浅羽が口の端を上げて苦笑した。
「妃奈子さん、性格きつくなった?」
「浅羽さんが私を不快にさせる事ばかりするからよ」
紅茶を頼み終わった浅羽が、眼鏡の奥の切れ長の目を向けてくる。何か言いたげな様子だ。
「浅羽さん、何?」
「いや、妃奈子さんが元気で良かったと思って。犯人の話をした時、妃奈子さんがいきなり青白くなって震え出したから心配だったんだ。妃奈子さん、この前はごめん。怖がらせてしまったね」
心配してくれていたのが意外……。
そういえば浅羽も伊藤先生のクリニックまで来てくれたんだった。
「こちらこそ、あの時はごめんなさい。病院に浅羽さんも来てくれたんでしょ? 私、あの時自分の事でいっぱいで浅羽さんに気づかなかった」
「気にしないで。僕が勝手に心配しただけだから」
細められた眼鏡の奥の目が優しく見える。浅羽の笑顔にちょっと癒されてしまうのは、三田村君の事で気持ちが疲れているからかもしれない。
「今日のスーツは気合い入っているでしょ? お見合い?」
しんみりとした空気を消したくて、茶化すように訊いたら、浅羽が「うん。お見合い」と照れくさそうな顔で頷いた。
「お見合い相手はロビーで妃奈子さんのボディーガードと立ち話をしている神宮寺綾子さん」
えっ……。
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