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「冗談でしょ?」
じっと浅羽を見るとクスッと笑いながら、「こんな事、言われたらそう思うよね。でも、本当だから」と、ため息をついた。
「彼女、取引先の会社の社長のご令嬢でね。社長からどうしても娘に会って欲しいと頼まれて、お見合いをしたが、会って3分でふられたよ」
笑ってはいけないと思うけど、笑ってしまう。浅羽がふられるなんて面白い。
「あ、妃奈子さん、ざまあとかって思った?」
「うん。思った」
浅羽とつき合っていた時はこんな事、言えなかった。でも、今は何でも言える。浅羽にどう思われてもいいと思っているからだろうな。
「ひでえな。ちょっとは慰めてよ」
「私をふっといてよく言えるわね」
「確かに」
浅羽と目を合わせてクスクス笑う。こんな風に浅羽と笑い合う日が来るとは思わなかった。失恋の傷もすっかり癒えたのかな。
「綾子さん、許嫁がいたんだってさ。その人の事が忘れられないってハッキリと言われたよ」
「許嫁とは古風ね」
綾子さんの方を見ると、三田村君を見て泣いているようだった。
そんな綾子さんに三田村君が困った様子でハンカチを渡し……綾子さんは三田村君に抱き着いた。
まさか……。
「許嫁って三田村君?」
「そんな雰囲気だよな。人目のある場所で抱き着くとは、綾子さん、大胆だな」
浅羽も観察するようにロビーで抱き合う二人に視線を向ける。
「妃奈子さんのホディーガード何者なの? 神宮寺家のご令嬢と許嫁になるなんて、相当な家柄だよね?」
「神宮寺家って、財閥の?」
「そう。レストラン、ホテル、病院、製薬事業などを手掛ける神宮寺グループ。僕がお付き合いをしているのは神宮寺製薬の社長なんだ」
神宮寺製薬の社長のご令嬢と許嫁だったなんて、確かに普通の家柄ではない。彼の実家は一体……。
――勇人、帝には会っているのか?
三田村君の叔父さんの言葉を思い出した。
経済界で帝と呼ばれている人物がいる。
三友商事を始めとする、石油、海運、不動産事業を営む会社を多く持つ、三友グループ創家の三田村家の出身で、現在は三友商事の代表取締役会長を務める三田村幸蔵。
今まで気づかなかったけど、三田村君って、あの三田村家の三田村君?
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