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「妃奈子さん、昨日はすみませんでした」
いきなり三田村君が立ち上がって、深く頭を下げた。
「浅羽さんと妃奈子さんが何を話したかを聞く権利、俺にはありませんでした。余計な口を挟んだと反省しています」
頭を下げたまま三田村君が言った。
昨日、帰宅してから、浅羽の事で三田村君と言い合いになった。
三田村君が何も言ってくれないのが頭に来て、私も言葉が強めになってしまった。
三田村君、気にしていたんだ。
それで私の機嫌を損ねない為に謝ってくれる訳だ。さすが議員秘書。パフォーマンスが上手ね。こういうのに引っかかって、三田村君に今まで本音を晒して来たけど、もう引っかかるものか。
「今後は気をつけますので」
「わかったわ。頭を上げて」
三田村君が頭を上げて、あれ? 思っていたのと違うみたいな表情でこっちを見る。
「妃奈子さん? やっぱり何かあったんですか?」
「別に」
「そうですか」
三田村君が納得のいかないような表情を浮かべる。
「あの、もしかして気にされてますか?」
「何を?」
「昨日、ホテルで会った女性です」
「ああ、三田村君のただの古い知り合いだっけ」
「彼女は何というか、その……」
三田村君が気まずそうに人差し指で頬をかく。
「三田村君の元許嫁の神宮寺製薬の社長のお嬢さん、神宮寺綾子さんでしょ」
こっちを見る黒い瞳が丸くなった。
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