きゃっと・いん・ぶーつ

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 冬は過酷な季節だ。寒気は容赦なく体温を奪い、狩りをしやすい虫やトカゲの類もすっかり姿を消してしまう。頼みの綱の人間の食い残しも、最近では鉄の網に囲われ手が出せない。自分らが喰わずに捨てようというものまで囲い込むとは、強欲な連中だ。  俺が住むのは川沿いの小さな町、けち臭い人間たちは容易に俺たちにメシを与えようとはしないが、例外もいる。川原まで足を伸ばせば鳥を狩れることもある。  物心ついた時には、もう俺一匹だけで道をさ迷っていたので、親は知らないし兄弟もいない。気まぐれに人間が与えてくるメシに頼っていては命を繋げないので、ひたすら狩りの腕を磨いた。バッタ、トカゲ、カエル、蛇、モグラ……。小鳥や魚でも捕れた日には御馳走だ。自分のねぐらで貪り食う。  俺のねぐらは幾つかあるが、最近はバイクカバーの下が加わった。上にのぼる時、足を掛ける所がやたら熱くなっていることがあるので要注意。  持ち主の男は、俺とバイクを共有していることを気付いている。メシをくれたりはしないが、俺に敵意は向けてこない。但し、俺が捕ってきた鯉や鳥を座席の上で食っていた時は、怒って追いかけてきたことがある。 「ふざけんな! 血塗れじゃねーか!」  男は走りながら叫んでいたっけ。 ―まあ、落ち着けよ。少しは分けてやるから。  俺は思ったものだった。俺はある程度長生きしたので、概ね人語が理解できる。だから、舐めてもらっては困るのだ。
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