きゃっと・いん・ぶーつ

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 人間はこの世で我が物顔にふるまっているが、俺は連中の下風に立つつもりはない。  縄張りのパトロールで定期的に顔を合わせる人間もいるが、一、二度撫でさせてやったくらいで主人面されるのは真っ平だ。メシをくれる家もあるが、ゴチになった時には、俺は必ず自分で捕った獲物を後日返してやっている。付き合いは「対等」であることが大事だからな。バッタやトカゲを玄関前に置いておいてやると、人間たちの反応は様々だ。笑って受け取る奴もいれば、驚いて腰を抜かす女もいる。折角の御馳走を足で蹴散らかす恩知らずもいるが、これは無知ゆえの所業だ。俺は広い心で許してやる。  殆どの人間は自分の力で狩りをすることはなく、店で何かと引き換えに食い物を得る。自分一人の力で世渡りできない全く哀れな連中さ。包装された肉や魚ばかり食っているせいで、獲った獲物の旨さを知らないんだろう。    気ままに生きる俺だが、苦労も多い。大体腹を空かしているし、寒い季節や悪天候も俺たちには脅威だ。そんな時はねぐらでじっとするに限るが、そうもいかない時もある。  雪混じりの雨がさらさらと落ちる中、俺は外をさ迷い歩いていた。雨を凌げるねぐらの一つを他の猫に奪われていたのだ。 ―戦って取り返すか?  必死の形相で威嚇してくるよそ者を見ながら一瞬考えたが、徒労に終わった狩りの帰りで、俺は精魂尽き果てていた。
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