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平田康太が定時上がりで帰宅することはまず無い。
だいたい1~2時間くらいの残業が日常だ。それでも、6時半には会社の駐車場を出て、週に2日はロードサイドのスポーツクラブに寄る生活をキープ出来ている。給料もそこそこで、安定した働きやすい職場だと康太は思っている。
地元密着型工務店の総務経理の仕事は、オフィスワークが主体で、日中はほとんど身体を動かすことが無い。慢性的な運動不足解消のために、ジムに通おうかと思い立つのは自然なことだった。
いくつか回った上で、ここヒマワリSCに入会することに決めたのは、もちろん交通の便がいいこともあるが、一番の理由は魅力的なサウナだった。シャワールームの隅におまけのように設置してあるサウナではなく、広さも温度も十分な本格的なサウナを見てしまっては、即決するしかなかった。
今までは、サウナと広い風呂目当てで隣の市まででもスーパー銭湯に行っていたが、ここに通いだしてからはその必要もなくなった。
康太が行く7時台の時間帯は、おおよそ固定メンバーになっている。通ううちに顔見知りも出来、世間話もするようになって、実はそれも続いている理由になっていた。ロッカーやサウナでする、どうでもいい話は、仕事や交遊関係とは全く関係なくて、激しく気楽だ。
話好きのじいさんたちは、康太の中に土足でズタズタと入り込んでは来るが、さしてプライバシーを物色するでもなく、すぐにスタスタと出て行ってくれる。こっちが気にしなければ無害だ。最初のうちはウンザリしていたが、それに気がついてからは、康太は案外のびのび出来るようになった。
「平田君、今日は早いね」
「そうですか。いつもどおりですよ」
「マメだね。デートとか行かなくていいの?」
「相手がねー。彼女いないんですよ」
「またまた~。男前なのに」
康太には定番の話題だ。じいさんたちにとっては、その辺りを適当に擽るのが康太のような世代とのコミュニケーションを取りやすいのだろう。
それでも仕事帰りにこうやって、ダラダラとどうでもいい雑談をする時間は結構大事なんだと実感することが多い。一日のリセットタイムだ。
シャツを脱いで、スポーツブランドのウエアに着替えていると、入口付近から聞き慣れた柔らかい声がした。
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