ミルクティー

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ミルクティーを飲んでいると思い出す猫がいる。 コンビニにいつもいたミルクティー色をした猫。 その猫のことは、ミルクティーと呼んでいた。 近所のコンビニは海が近いからかよく野良猫の溜まり場になっている。たまに子猫が店長の用意したダンボールで雨風を凌いでいたりして猫好きのあいだでは、ちょっと有名だったりもする。 私もコンビニに寄るついでに猫たちと戯れるのが密かな楽しみだ。 いつもどうり猫と戯れていたら、ミルクティー色をした猫がじっと見つめていた。 その猫は猫風邪を患っているのか右目が膿んでいた。見ているだけでも痛々しい。 野良猫の寿命は、せいぜい3年だ。 この子には明日にはもう会えないかもしれない。 このミルクティー色の猫と出会えた今日を忘れたくない。 誰かが覚えていないと、この子たちはいなかったことにされてしまいそうだから。 そんなのってさみしいでしょう? だから、その猫をミルクティーと呼ぶことにした。 そのあともミルクティーとは会ったりした。 ミルクティーは病気持ちだからか、ほかの猫からは避けられていた。 やっぱり猫も人と一緒なんだな。 少しでも違うところがあると避けられる。 『お前の気持ちはよくわかるよミルクティー』 ミルクティーに餌をあげながらそう呟いた。 そんな心情を察してかミルクティーは顎を手に擦りつけてきた。 ミルクティーとのささやかな交流はひとりぼっちだった私を癒やしてくれた。 ひとりぼっちの人間と、ひとりぼっちの猫。 こういうのを、ふたりぼっちというのかな。 ふたりぼっち、なんだかいいな。 集団に無理して溶け込もうとするよりもひとりじゃない気がする。 約束なんかしなくても言葉を交わさなくても、ただここにいるだけで満たされていくような感覚が欲しかったんだ、そんなこと、なんで今まで気付かなかったんだろう。 ぽろぽろ目から頬に落ちていく涙をミルクティーは、そっと舐めてくれた。 それからミルクティーは見かけなくなった。 なぜか不思議と泣けなかった。 泣いてしまえば、ミルクティーに心配をかけてしまう気がしたからだと後になって納得させようとした。 本音は、ミルクティーはいなくなっていないとありもしない可能性に縋りたかったんだ。 だけど、ミルクティーをふたたび見ることはなかった。 そっか、ミルクティー、天使になってしまったんだ。 花の代わりにミルクティーを買った。 ミルクティーは甘いはずなのに、苦く感じた。
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