コバルトブルーと白い雲 1

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コバルトブルーと白い雲 1

 今日はブルー。昨日は虹色。明日は何にしようかな。  あたしはつり革をつかんだ自分の手を見てうっかりにやにやしてしまった。おっと、危ない。って、マスクがあるから平気なんだった。  毎日ネイル替えてるから友達には心配されるけど、これはネイルチップだから平気。っていつも言ってるんだけどなぁ。  あ。目の前の男子があたしの爪が珍しいのかじろじろ見てる。よく見かける顔だから、毎日変わる爪が変だと思ってるのかも?  まあ、そういうのも判らなくもない。前のあたしだったら「なにそれキモい」と言ってたかも知んない。  でも今は違う。実はこれ、格安でゲットしたオリジナルのネイルチップだったりする。だからその辺のショップにはない。だからあたしもおしゃれじゃーん! って思って着けてる。  それにしてもこんなに綺麗に作れるってどんだけよ? と、いつもの疑問を頭に浮かべて、あたしは空が描かれたネイルチップを見た。いやあ、ここまでいくと、げーじゅつだと思うワケよ、げーじゅつ。  まあ、校則ゆるゆるのうちのガッコじゃないと、こういうのは無理だと思うけどね。校則でOKでも部活でアウトだって、クラスの誰かがゆってたっけか。あたしはだからずーっと帰宅部。部活でガンバってる人、おつかれさま!  朝は遅刻ギリギリに校門に滑り込むのがあたしだ。今日も電車を降りて猛スピードで走る。……自慢じゃないけど足は速いほう。ちんたら走ってる生徒を追い越して、校門閉めかけてるセンセの脇を抜けてギリギリセーフ! 「こら、橋本! 危ないだろうが!」 「はーい! すみませーん!」  上っ面だけ謝ってあたしは校舎に駆け込んだ。ダッシュで上履きにはきかえて廊下を走って教室にすべり込む。よし、今日は5分前には着けた。 「ルイ子、おっそーい」 「やっぱドべでやんの」  席近い友達2人がスマホいじりながら笑う。ばっか、あたしにしては早いじゃん。 「それより見て見て!」  机に鞄を放って、あたしは二人に爪を見せた。口の中で棒つきキャンディーを転がしてた金髪のりっきーが感心したように覗き込んでくる。……りっきーは本名がキラキラネームだからあだ名で呼ばないと怒るんだよね。  もう片方のおだんご結びの知衣は小学校からの友達。で、りっきーが中学で一緒になってからずっと3人でつるんでる。 「すっげー力作じゃん。何コレ、いくらよ?」 「じゃーん! なんと3回分……えっと、30枚300円!」  りっきーの質問にあたしが答えると、2人が慌てて顔を見合わせて食い入るようにあたしのネイルを見る。ドヤー。 「嘘でしょ? ルイ子ってネイルに興味なかったじゃーん」  そう言って笑ったのは知衣。知衣はネイルをたくさん持ってて、いつも可愛い色を塗ってる。逆に金髪がやたらと目立つりっきーの爪には色は付いてないけど、手入れはしてるって聞いた。 「近頃そうでもないんだよ。なんか? フリマアプリで見つけたぽいよ」 「え、そういうのも売ってんのー?」  2人が声を落として話してるのを見ながら、あたしは上機嫌で席に着いた。 「ちょっとー。ルイ子、どこなのか教えてよー」 「やだ。知衣に教えたら買い占めるもん」 「あ、そりゃそーだわ。ルイ子が正しい」  知衣がむくれるのを見て、あたしとりっきーは笑ってしまった。そこでチャイムが鳴った。  実はこのネイルチップの値段には裏がある。そこのフリマアプリで売ってる人、ハンドルネームっていうの? Keiさんっていうんだけどー。彼女? 彼かな。まあ、どっちでもいいや。最初に買った後、Keiさんとメッセやり取りした時、あたし、高校生だってゆったんだよね。  そしたらKeiさんが、親からお小遣いをもらってる子からそんなにお代はとれないからって言って、格安で完全受注してくれるようになった。もちろん、他の人には内緒。  それからKeiさんは色んなデザインであたしにネイルチップを作って売ってくれてるってわけ。だからマジごめん。知衣にも教えてあげらんない。  ホントはあたしがKeiさんさんに甘えてるって知ってる。でも夏はバイトすることにしたし、今度はちゃんとしたお代を払ってKeiさんから買おうと思ってる。だってこんなにキレーなんだもん。お金払わないなんてないよ。  Keiさんは謎の人で、フリマアプリだけじゃなく、SNSとかでも一切顔出ししてない。しかも女か男かわかんない言葉で喋る。だから特定は出来ないけど、キレーなもの作ってくれる人なら、あたしは性別なんかどうでも良い派。 「はー? 両手分300円てのはあるけど、30個とかなくね?」  隣の席でスマホいじってたりっきーが言う。さすがりっきー。もう調べてるんだ。早いなあ。  りっきーの後ろの席に座ってた知衣が身を乗り出す。 「ちょっ、見せてー! それでも欲しいかも!」 「でもルイ子の着けてるヤツとダンチ。知衣、これ、着けるの嫌じゃね?」 「あー……ちょっと好みとちがうなー。この程度なら自分で直塗り出来るしー」  2人があたしの横でそんなこと話してると担任が教室に入ってきた。りっきーがさりげなくスマホを机にしまって、知衣も大人しく席に着く。あたしも鞄をフックにさげて前を向いた。
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