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「・・・るーさん・・・」
「なんだい。」
散々騒いだ加奈子は、俺の隣でごろりと仰向けになる。
「・・・私、このままじゃヤバいよな・・・」
「確実にやられるな。」
「・・・転職しようかな・・・」
「おぉっ」
「でも言われるんだろうな・・・『最近の若いやつは打たれ弱い』とか『甘えてる』とか。」
「言わせとけ。どうせ奴らはお前の人生に責任なんて持たないんだから。」
加奈子は、抱き枕を思い切り顔に埋めた。そのままゆっくり呼吸をする。
「・・・るーさん 」
籠もった声で、俺を呼ぶ。
顔を見せないまま、右手の指だけが微かに動いて何かを求める。
「あいよ」
俺は加奈子の小さな体に身を寄せると、乱れた黒髪にそっと手を乗せた。
「うあぁぁぁぁ・・・」
さっきと違う声をあげながら、加奈子は俺を抱きしめる。
俺は彼女の体温を感じながら、髪を撫でる。繊細な砂糖菓子を壊さないくらいの、でもしっかりとした手つきで。
加奈子は俺の胸に顔をうずめると、これまでの我慢を一気に吐き出すように泣いていた。
「ごめん・・・汚くなった・・・」
「いいよ。」
「るーさん・・・」
「うん。」
「るー・・・」
「うん うん。」
小さく 本当に小さい声で加奈子は俺の名前を呼び、俺は呼ばれる度に彼女の髪を撫でる。
綺麗な言葉も、心ときめく仕草もない。
苦しみを肩代わりすることだってできない。
それでも、好きな人が泣いている姿をただ見ているだけにはいかなくて・・・
ただ俺は、加奈子に寄り添っていた。
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