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夜の果て零番地。『死神』と名乗った青年は静まり返った空気を震わせるくらい叫ぶ。夜色を纏った、月色の瞳が冷たく見下ろしている。
「正気かお前。いや……ほんと何なの?死神忙しいんですけど。拘束するとかほんと何なの……」
しまいには現実逃避する死神の青年は、さらに深いため息をついた。もしかしたら逃れられないというのを身を持って、知ったのかもしれない。
「いいよ。三日間、お前と過ごす。そしたら大人しく従えよ絶対だからな。……厄介な女に捕まった……絶対マスターに殺されるし減給じゃん」
目の前の死神と契約した。三日間だけの。
一緒に想い出の地を巡る、ちいさな夢の散歩。生前歩く事のできた場所はそんなに多くもないし、ほとんど家か病院。そんなわたしにも想い出はあって、それを一緒に巡ってくれる“ひと”がいる。
それだけで幸せだ。
「よろしくね死神さん!」
「……よろしくしないし」
「もしかして死神さん、ツンデレなの?」
「ちがう」
死神の青年は仕方なくといった風ではあるが、手を差し出してくれた。その手に温かさは宿っていない。血の通わない手を、まるで青い月のようだと思った。魔法の月。青い泉のような神秘的な色を宿しながら、その月灯りはとてもあたたかい。
それだけでとあなたは思うかもしれないが――わたしは“うれしい”のだ。
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