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涙
「正也、大丈夫!?」
俺の側まで浴衣姿で小走りでやってきた華乃(仮)は、心配そうな顔で中腰になり、尻餅をついている俺の顔を覗き込んだ。
「あ、ああ。大丈夫……。
ほっとしたら気が抜けて」
華乃(仮)の顔を見て返事をすると、安心したのか、頬にポロリと涙が伝う。次から次へと流れる涙に、俺は慌てて手の甲で涙をぬぐった。
「あれ、おかしいな。涙が止まんない……」
そんな俺を見て、華乃(仮)は慰めるように俺の頭にポンポンと手をやった。
華乃(仮)が差し出す手をとって立ち上がった俺は、反対の手で申し訳程度に尻をはたく。
「悪い……、なんかちょっと、嫌な記憶がフラッシュバックして。ーーあんたは生きてるのにな。なんで華乃が殺されたときのこと、思い出してしまうんだろ……」
下を向き、ははっと乾いた笑い声を出す俺に、華乃(仮)は俺を引き寄せ、抱き締めた。
その瞬間、俺は驚いて目を見開く。固まっている俺の緊張を解くように華乃(仮)は、優しく俺の背中を撫でていた。
「……華乃?」
ちらりと華乃(仮)を横目で見て、言った。
「はいはーい。なんですか?」
ひときわ優しい声で返答する華乃(仮)に、あやされている感じがして、段々と俺は気恥ずかしくなってきた。
「あのっ、こういうのは公共の面前でやるべき事じゃあないと思うなあ!」
華乃(仮)の肩に手を置き体を引き離すと、華乃(仮)が不満げな顔で俺を見た。
「もー、せっかく慰めてあげようと思ったのに~」
俺は気恥ずかしくて華乃(仮)から視線をそらし、口元に手をやった。恥ずかしさで顔が熱い。耳まで真っ赤になっているであろう俺の姿を見て、華乃(仮)は、にまにま上目使いで俺の顔を覗き込む。
「……見るなよ」
ボソッと俺が言う。
「え~! 貴重なデレシーンだもん、もっと見せて♪」
ふふっと笑う華乃(仮)の顔を横目で見た俺は、気恥ずかしさから一人すたすたと華乃(仮)をおいて、青になった横断歩道を渡りだした。
「あっ、待ってってば!」
服の裾を華乃(仮)に片手で掴まれ、俺たちはそのまま、横断歩道を渡りきり、神社の鳥居をくぐった。
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