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西野華乃
槙村和花は泣きながら、俺を抱き締めている腕の力を強めた。
「ごめんなさい。華乃ちゃんを救えなくて、ごめんなさい……!」
俺は泣きじゃくる槙村和花の前髪をつかんで無理矢理顔を上げさせ、目を見開き、息づかいが聞こえるぐらいに顔を寄せると聞いた。
「華乃がなんだって?
まさか、華乃自身もここへ来たのか?」
その問いに答えたのは店主だった。
「西野華乃は、君がここへ来る数ヵ月前にここへ来ている。二度ね」
俺は槙村和花の前髪をつかんだ手を離し、店主の足にすがり付くようにして聞いた。
「なぁ、二度ってなんだよ。華乃は成仏したんじゃないのかよ! まさか、怨霊になってねぇよな? なあってば!」
店主は無言で首を横に振るだけだった。
俺は目を見開いて店主を見る。
「華乃は……華乃はどこだ?」
俺はゆらりと立ち上がり、靴の並べてある棚へとふらふら近づく。
そこに並べてある靴を一つ一つわし掴み、華乃のものじゃないやつはポイポイと地面に投げ捨てていった。
「ま……正也くん、何やってるの……?」
俺の背後で、槙村和花が立ち上がる気配がする。そんなことも気にせず、槙村和花の赤いスニーカーもわし掴みにし、地面へ落とした。
「靴が……壊れちゃうよ!」
槙村和花は地面を這いずり回りながら、俺が捨てた靴を手当たり次第に拾って抱えていく。足元で靴を拾う槙村和花を気にもとめずに、俺は靴を放り投げていく。
「ない、ない、どこにもない!」
肩で息をした。
棚にはもう靴がなかった。
おれはゆらりとひるがえって、店主の方を見た。
「なあ、華乃の靴はどこだよ?
あんた知ってるんだろ、どこにあるんだよ!」
詰め寄って襟首を持ち上げると、店主がふふっと笑った。
「ここにはないよ。あの子の要望でね、靴は別の場所にある。」
「……別の場所?」
俺は左目を細め、首を軽く傾ける。
「彼のところだよ。呪い殺すってことは、そういうことだから。」
俺は襟首をつかんでいた手を力なく下ろした。片目から涙が一筋落ちる。
「同じ呪い殺すなら、俺が怨霊になって殺すのに……。なんで華乃を止めてくれなかったんだよ!」
店主にぶつけるように叫ぶ。すると、地面で靴を大量に抱き締め座り込んでいる槙村和花がボロボロと泣きながら言った。
「止めたんだよ……? だけど、ふたりの夢を奪った罰だって。どうしても赦しておけないって華乃ちゃんが……」
俺はしゃがんで槙村和花と同じ目線にすると、目を皿のようにして彼女を見た。
「華乃が、なんだってェ?」
涙で濡れる槙村和花と目が合う。揺れる瞳に俺の顔が映っている。
「ごめ……なさ」
俺は槙村和花の両肩を掴み、顔を近づけて聞いた。
「そういえばさっき、あんたら、俺は魂のクリーニングに失敗したって言ってたよな。もしかして華乃もそうなのか?」
槙村和花の瞳が揺れる。
「どうなんだよ」
槙村和花の瞳から、ポロリと涙がこぼれた。
「西野華乃は、ここに来たときに、槙村和花の靴を選んだ。だけど結果的に彼女は、輪廻の環から外れたまま、怨霊になる道を選んだ。ーーそれはなぜだかわかるかな?」
「しらねーよ、そんなの」
俺は槙村和花の肩をつかんでいる手に力を込めた。
「君を、怨霊にしないためだよ」
俺は目の前が真っ白になって、力なく店主の顔を見上げた。
「久遠正也、君を救うためだ。」
頭の隅っこで、華乃が笑った気がした。
「久遠正也、もう一度言うよ。君には二つの道がある。
一つは輪廻の環に戻り、生まれ変わって人生をやり直すこと。もう一つは、輪廻の環から外れ、怨霊となって現世にとどまること。
君はどっちにいきたい?」
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