例え地獄の底でも

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例え地獄の底でも

「あ……ああ、あ……。あー、あ、あはははっ! あはっ、あはははっ!」 俺は槙村和花の肩から手を離し、手拍子をしながら笑い転げた。 槙村和花は瞳を震わせながら、俺に聞いた。 「何がそんなに、面白いの……?」 俺はゆっくりと槙村和花の方を向くと、光のない目で、彼女を見つめた。 「だって、おかしいじゃん。結局全部台無しになったんだし。」 俺はゆっくりと首を傾ける。 「台無しかどうかは、正也くん次第だよ。 華乃ちゃんの望みを叶えて輪廻の環に戻ることを選ぶなら、私、どんなことしても……」 すがるような目付きで俺を見る槙村和花に、俺は真顔でこう言った。 「いーらーなーいー」 槙村和花の顔がひきつった。 「えっ……?」 俺は店主の顔を見上げ、聞いた。 「なあ、怨霊になったら、呪い殺すこともできるんだろ?」 店主は口元を強張らせた。 「君も彼女と同じ道を辿るのかい? 彼女の希望を無に帰すことになっても、そうするつもり?」 俺はケタケタ笑いながら答えた。 「華乃がいない来世なんか、興味出るかよ」 店主は俺の顔を見下ろすようにして、能面のような顔で聞く。 「本当にそれでいいのかい? 例えそれで彼を呪い殺したとしても、ふたりとも浮かばれないよ?」 俺は呆けた顔で店主を見て、再び、ケタケタ笑い始める。 「もう私たちの声は届かないのかな?」 店主が悲しげな目で俺を見る。 俺は言った。 「華乃となら、地獄の底でだって笑って暮らせるさ」 店主が目を閉じ、少し考えたあと、口を開いた。 「君たちはだいぶ……いやかなり歪んだ絆を持っているね……」 俺はケタケタ笑うのをやめ、目を見開いて店主を見た。 「歪んでねぇよ。ーー純愛だよ」 槙村和花が靴を抱き締めたまま、俺に聞いた。 「華乃ちゃんの好意を、無視することになるけどいいの?」 俺はケタケタ笑いながら言った。 「華乃ならわかってくれるさ、多分ね」 おれはゆらりと立ち上がり、地面に転がっている靴をざっと見渡す。 そしてその中から、自分の靴を見つけ出すと、拾って店主に手渡した。 「あいつのところにこの靴を。精々、これでもかってぐらい、呪い殺してやるよ」 そう言って俺は笑った。
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