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葬儀
菊の花に囲まれた華乃の遺影。
葬儀に参列した同じ学校の生徒が固まって泣いていた。
華乃の母親が涙をハンカチで拭いている。
まるで映画をみてるような、どこか他人事みたいな感覚で、俺は現実味が湧かないまま、式に参列した。
自分だけがこの場にふさわしくない存在だと感じ、居心地が悪い。
葬儀が終わって、皆ちりじりに帰っていくなか、父さんが俺に声をかけた。
「正也、あれはお前のせいじゃないんだからな。あれは不幸な事件だったんだ。華乃ちゃんとは仲が良かったんだろう。泣いたって良いんだぞ」
父さんに肩を抱かれ、引きずられるようにして、俺は数歩歩いて立ち止まった。
「……ダメだ。全然現実味がない……。
なんで俺が助かって華乃がダメだったのかわからないよ……!」
絞り出すように声を出す俺。ポロポロと涙がこぼれていく。
「正也、自分を責めるな。
悪いのは犯人だ、お前じゃない」
悲しげな目で俺を諭す父さん。
「わかってるよ、そんなこと!
だけどどうしても自分を責めちゃうんだよ、なんで俺だけ生きてるのかって!」
それを聞いた父さんがハッとした顔をした。
「もう俺のことはほっといてくれよ、父さん……!」
俺は父さんの手を振り払い、きびすを返してその場から逃げた。
「正也!」
父さんの声を背中に受けながら俺は全速力で走り去っていく。
段々と小さくなっていく父さんの声。
その日の夜、俺は頭が空っぽになるくらい走りに走った。
このやるせない気持ちをどこにぶつけていいのかわからなかったから、泣きながら走ったのをよく覚えている。
あの日、祭りにいくって言わなければ、華乃は死なずにすんだかもしれない。
俺がもう少し早く神社についていれば、華乃は刺されなかったのかもしれない。
ぐるぐるぐるぐると鉛のように後悔の念が俺の心に重くのし掛かってくる。
願わくば犯人の男に、厳しい厳罰が課せられますようにと祈りながら、俺は夜通し走りきった。
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