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教会に帰り着くと、入口に見慣れない高級そうな車が停まっていた。
神父様のお客様だろうか? しかし、教会には色々なお客様が来るけれど、時間は元より、駐車場ではなく、こんな入口の横に停めてあるなんて珍しい。
敷地を抜けて、奥の施設の玄関口へと向かう。扉を開こうとした時だった。同じタイミングで扉が内側から開かれた。
「おかえり。待っていましたよ、享さん 」
「あ……。ただいま、シスター 」
「随分と遅かったのですね 」
そんなに遅かっただろうか? いつもはもっと遅い日もあるのに。
違和感を覚えながらも、「ごめんなさい、シスター」と素直に謝った。この棒の様に細く背の高いこのシスター長は、見掛け通り神経質で少しでも言い返せば、反抗的だといつまでもネチネチとお説教を食らうことを、ここに住む子供達の中で知らぬものはいない。
シスターは「まぁ、いいでしょう 」と息を吐く。
「あなたにお客様がお見えですよ 」
「お客様? 」
この施設に来てから、そんなことはただの1度としてあったことははない。身寄りの無い自分には、心当たりもまるでない。
「急ぎなさい、神父様もお待ちです。応接室に早く行きますよ 」
踵を返したシスターの後に続いて、歩き出す。黒く長いスカートを操るように歩くシスターの足は速くて、小走りになりながら付いて行けば、そんなに広くはない教会の中、あっという間に応接室に着いた。
ドアを叩こうとしたシスターが、ふとこちらを見て何かに気付いたように自分のポケットを探る。
「シスター? 」
シスターは黙ったまま、手の中の鍵で、十字架の付いた享の首輪を外した。
Ωだと分かった時から、決して外されなかった首輪。
その時のシスターのこちらを哀れむみたいな何ともいえない表情に、不安になった。
しかし、シスターの表情は直ぐにいつもの厳しい表情に戻る。
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