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ホテルから去った後、本当に会社に用事があった俺は、深夜帯だと言うのに、薄暗い事務所に戻ってきていた。
「よう、相良残業頑張ってるか?」
「うわっビビった。瀬尾さんビビらせないでくださいよ。」
「悪かったな〜。ちょっと野暮用思い出して急いで戻ってきちまったわ。」
非常灯の室内に、デスクトップのブルーライトを浴びた後輩のやつれた姿。
深夜一時は回ってるのに、毎度懲りずに残業ご苦労なこった。
事務所傍に在る冷蔵庫からストックの缶コーヒーを取り出すと、プルタブを開けてぐびぐびと喉へと流し込む。
自分のデスクには、さっきやり残した今日分の契約リストの取り零し。
「瀬尾さーん。酒飲んでたんすね。」
「おうよ。お前もさっさと切り上げて家帰って風呂上がりのビールでも飲めや。」
「いや、これこの後奢って下さいね。って意味だったんすけど。」
「バーカ。誰が野郎に奢るかよ。」
「ちぇっ....瀬尾さんのケチ。」
「お前がかわい子ちゃんにコスプレ出来たら考えてやらなくもないぜ?」
新米社員で、同じ営業マン。相良は新人の中でもガッツある男だが、何せ頑張り過ぎる部分が多い。
終電逃してまで残業は当たり前。お前ん家、こっからタクシーでも五千円は飛ぶ距離だろ。
脳内で相良に説教をしつつも、奴との会話をする。
「それよりも、週末のA社主催のパーティーに、部長の代わりに参加するんですよね?」
俺のこの会社での立場は、部長の下の地位。だけど、現場回りは他の誰よりもする。
営業マンは契約貰ってなんぼの世界だ。
相良が俺に気安く奢って下さいって言うのは、俺の成績が社内で一位で、高給取りだって理解してるから出るもんで....。
「参加するぜ?なんならお前も一緒に来るか?」
「ちょっ、俺なんかが一緒したら瀬尾さんの足を引っ張るだけっすよ!」
「なーに、分かってるじゃん。相良ちゃ〜ん。」
「俺、男っすよ!ちゃん付けは気持ち悪いんでやめて下さい‼︎」
説明しよう。俺は決して男は恋愛対象に入らない。
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