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いつもの駅に辿り着く頃には、外は夕焼け空に染まっていた。
結の歩速に合わせて、ゆっくりと帰路に着く。
改札を抜けて、夕飯の買い出しでもと駅前のスーパーに寄ろうとすれば、目の前から人混みにぶつかりながらも謝りもせず、一直線にこちらに目掛けて歩いてくる男の姿を見つけてしまった。
俺とそこまで変わらない高身長、見るからにハイブランドのオーダーメイドスーツを着ているが、二十代半ばと思わしき若々しさ。
だがしかし、顔つきは凛々しく、何なら睨みを利かせながらこちらに向かってくる。
気の所為だと思いたい。実は俺達じゃなくて、後ろに用があるんじゃないか?って勘違いを正したいところだが....。
「....えっと、なにか?」
俺たちの目の前で、ぴたりと動きを止めたその男の視線の先には、隣に立っている結へと向けられていた。
思わず俺から声を掛けてみるが、反応する素振りなどせずに、只々結を見て....そして少し屈んで、顔を近付ける。
「あの!!!!」
なんだか危ない臭が漂うそいつの前に、体を捩じ込んで立ち向かえば、「ちっ」っと態と聞こえる様に舌打ちを落した男は、頭を回しながら今度は、俺に眼付けてきたのだ。
「お前誰だよ。」
開口一番、放たれた威嚇紛いな台詞に、咄嗟に俺も「お前が誰だよ。」と言い返す。
勢い余って、飛び出した唾が目の前の男の顔面へと噴射されれば、男は顔を顰めた後に、胸ポケットから品の良いハンカチを取り出すと、顔を拭い始めた。
「汚ねえもん付けやがって、アンタに話は無い。さっさと目の前から退け。」
まるで俺を虫けらのように扱う男。だがしかし、俺も負けじとその場から動かない。
「あのな、退けって言ってんだよ。耳付いてんのか?それとも馬鹿なのか?」
「全部聴こえてんだよ馬鹿。さっきから何なんだ。」
「アンタの後ろに居るの、四葉 結だろ。俺はその女に用があんだよ。」
「は?―――――――」
その名前を耳にした俺は、呆気に取られてしまう。そんな一瞬の隙を突く様に、男が俺の体を横に押し退けると、一歩乗り出した男が腕を振り上げて、結の頭を鷲掴みしたのだ。
「逃亡ごっこはこれで御終いだ。さっさと帰んぞ....。」
「お前何言っ(てんだ....)」
そう言い掛けた刹那、あろうことか男は、鷲掴みにしていた手で、そのまま結の前髪を引っ張り上げた。
「痛っっ!!」
観てるだけでも痛そうだった。ブチブチブチと毛が抜ける音が鮮明に聴こえてくる。
その痛みに耐えられず奇声を上げた結は、とっさに男の手を掴んで抵抗を見せるが、身長と体格差によって敵う筈もない。
このままではヤバいと脳内で危険信号を放つのに、咄嗟の手が出てこない。
脳裏を過るのは、この男が結の追手なのだと言うこと以外考えられないのだ。
寧ろ確実に黒だ。そうじゃなきゃ、この惨劇が行使されることはまず無きに等しい。
だがしかし、ここまで惨い真似をするのか?いくら四葉の追手だからと言って、会長の孫娘に何て事をしやがる!
沸々と怒りが湧く。俺の腕がピンと地面を向きながらも、握り拳を構えて怒りに震え出す。
「助けて、助けて夏喜さん!!」
「うるせー黙れ!!」
引き摺られる様に、一歩一歩と俺の側から離れていく二人。
これでいいのか?本当に....。
いや、よくねーよ!!
まるで重しを付けられたみたいにへばり付いていた筈の俺の脚は、地面を掻く様に無理矢理動かして踏み込むと、そのまま立ち去ろうとする男の後頭部目掛けて拳を振り落としていた。
やっちまったが後の祭り。そのまま前に吹っ飛んだ男から、結が解放されると、その腕をがっちりと掴んで、形振り構わずその場から走って逃げだしていた。
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