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折角の休日だっていうのに、最後の最後であれかよ。
その場から立ち上がり、乾いた喉を潤そうと冷蔵庫を開けば、晩酌用の缶ビールが目に入るが思い留まる。
酒なんか飲んでる場合じゃないのだと、冷静な自分が居た。
本当なら今頃、結のご機嫌取りで一緒に乾杯でもしてるんだろうな。
昼間は大袈裟に怒鳴っちまったし、少しでも気分を紛らわせてやれたらな....なんて思ってた。
自己満足で観光地なんかに連れ出したが、実際はアイツの喜ぶ顔が見たかっただけだったのかもしれない。
風呂に入って、リビングに来ると、いつも通りに俺の寝床と化したソファーに横になる。
寝心地は最悪で、疲労回復なんか出来やしないが、すっかりこの場所で寝る事に慣れてしまった。
こんな時、結が俺の女だったならば、今の彼奴の不安を少しでも緩和させたい一心で、一緒に寝てやるのが正解なんだろうが....。
俺とアイツはそんなんじゃない。身体の関係を持ってはいるが、気持ちが追い付いていない曖昧で脆い関係なのだ。
前代未聞の不思議な同居生活が、そう長くは続かないとは思っている。
俺は結が自分から出ていくのを待っているのだ。
もう十分。そう言って、俺の元から離れていく彼女を送り出す。
アイツはここに居ちゃいけない。俺なんかが一緒に居てはいけない存在だ。
タオルケットを頭まで被ると、俺は眠りに就いた。
明日からまた、忙しない日常が戻ってくる。繰り返す代わり映えの無い毎日。
だけど、家には結が居る。誰かの事を考えながら生活するなんて....。
熟睡していた筈なのに、愚かな夢を見た。
それは結が俺の手を取って微笑む姿である。控えめだが華やかな白いワンピースを着た結は、長い髪を靡かせて俺を引っ張る。
『夏喜さん....夏喜さん....。』
何がそんなに嬉しいのだろうか、結が俺の名を何度も呼びながら、突き進む先には眩い光りが放ち、俺達はそこに吸い込まれていった。
眩い光りが差し込む、寝る前に閉め忘れたカーテン。耳元で喧しいアラーム音が何度も繰り返される。
現実に引き戻された俺は、絶望的な顔を浮かべて起き上がるのだ。
寝落ちして、謎の夢を見た時間は、体感的には十分、十五分とそこらと言えよう。
あっという間に過ぎていたリアルタイム。総時間的には十分寝れた筈なのに、どうも不足と捉える。
そして結は俺が家を出るまで、その姿を現す事は無かった。
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