・他人の作った策略に嵌るべからず!

16/18
前へ
/54ページ
次へ
 昨日の例の現場を前を通り掛かれば、そこは何事も無かったかの様に、通勤ラッシュの人混みが流れていく。  それに紛れて駅構内へと入った俺は、昨日と全く同じ姿見の前に立つと、そこには間違いなく、冴えない三十路のオッサンが居たのだ。   「瀬尾さん二日酔いっすか?」 「いんや、昨日は一滴も飲んでねーよ。」 「そうなんすか....。なんか顔色悪いっすね。」 「とか言うお前の方が、今にも吐きそうだよな。」  事務所に辿り着き、今日の段取り決めをしていると、俺とは違う意味で顔面蒼白の相良が出社してきた。  奴が近付いてくると、酒の臭いがプンプン香ってきやがる。  夜通しで飲んでいたとも取れる面影に、俺は鞄から錠剤を手渡す。 「若いっていいよな。俺みたいな歳になると、日跨げねーからな。でも明け前に無茶すんなよ。この後響くぞ?」 「んなっ!!何て優しいんだ。こんな愚図な俺に慈悲深い....俺、瀬尾さんに一生ついていきます!!」 「一生はやめろ。気持ち悪ぃな。」 「酷いっ....こんなに幼気な好青年を振るなんて....。」 「なにが好青年だ。むっつりスケベ野郎が。」  こんなやり取りを繰り返していると、どうやら相良は昨晩、例の経理部の佐藤ちゃんとサシで飲みに行ったらしい。  そして、彼女の酒豪っぷりに驚きつつも、御供したらこの様ってやつか....。  念願かなって飲みデートが叶ったらしく、二日酔いで気分が悪そうな面だが、どうやら気分は高揚していて、酒が抜けてないのか、それとも佐藤ちゃんに酔っちゃってるのかは定かでは無い。  酒が強い女か....。俺なら絶対無しだな!!  弱い女の方が手っ取り早い。それに俺は自分のペース配分を計算して、フィニッシュまでを想定して動いている。  だから、見極めは早いと思う。落ちない女は論外ですっ。こんな事を相良に言ったら幻滅するだろうか。 『佐藤ちゃんとは本気なんです!!』って言うのが目に見えている。  強ちコイツが自称好青年ってのも納得がいく。まあしかし....矢鱈と領収書を切りに経理部に足を運ぶコイツは、端から見たって、佐藤ちゃんの事を舐め回す様に見てるもんだから、そういう妄想だってしてるんだろうな。  つまり、相良はむっつりスケベ。まあ奥手で慎重だから、そういう所は相良の良さとして買っている。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加