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昨日の例の現場を前を通り掛かれば、そこは何事も無かったかの様に、通勤ラッシュの人混みが流れていく。
それに紛れて駅構内へと入った俺は、昨日と全く同じ姿見の前に立つと、そこには間違いなく、冴えない三十路のオッサンが居たのだ。
「瀬尾さん二日酔いっすか?」
「いんや、昨日は一滴も飲んでねーよ。」
「そうなんすか....。なんか顔色悪いっすね。」
「とか言うお前の方が、今にも吐きそうだよな。」
事務所に辿り着き、今日の段取り決めをしていると、俺とは違う意味で顔面蒼白の相良が出社してきた。
奴が近付いてくると、酒の臭いがプンプン香ってきやがる。
夜通しで飲んでいたとも取れる面影に、俺は鞄から錠剤を手渡す。
「若いっていいよな。俺みたいな歳になると、日跨げねーからな。でも明け前に無茶すんなよ。この後響くぞ?」
「んなっ!!何て優しいんだ。こんな愚図な俺に慈悲深い....俺、瀬尾さんに一生ついていきます!!」
「一生はやめろ。気持ち悪ぃな。」
「酷いっ....こんなに幼気な好青年を振るなんて....。」
「なにが好青年だ。むっつりスケベ野郎が。」
こんなやり取りを繰り返していると、どうやら相良は昨晩、例の経理部の佐藤ちゃんとサシで飲みに行ったらしい。
そして、彼女の酒豪っぷりに驚きつつも、御供したらこの様ってやつか....。
念願かなって飲みデートが叶ったらしく、二日酔いで気分が悪そうな面だが、どうやら気分は高揚していて、酒が抜けてないのか、それとも佐藤ちゃんに酔っちゃってるのかは定かでは無い。
酒が強い女か....。俺なら絶対無しだな!!
弱い女の方が手っ取り早い。それに俺は自分のペース配分を計算して、フィニッシュまでを想定して動いている。
だから、見極めは早いと思う。落ちない女は論外ですっ。こんな事を相良に言ったら幻滅するだろうか。
『佐藤ちゃんとは本気なんです!!』って言うのが目に見えている。
強ちコイツが自称好青年ってのも納得がいく。まあしかし....矢鱈と領収書を切りに経理部に足を運ぶコイツは、端から見たって、佐藤ちゃんの事を舐め回す様に見てるもんだから、そういう妄想だってしてるんだろうな。
つまり、相良はむっつりスケベ。まあ奥手で慎重だから、そういう所は相良の良さとして買っている。
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