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朝から気分が乗らなかったが、思いの外仕事は楽チンで、久々にゆったりとした一日で幕を閉じた。
「どうです?このあと一杯。」
くいくいっと、おちょこを持つ仕草を繰り広げた相良に、俺は「お前ホント元気だな....。」とすっかり二日酔いが治ったらしい相良に呆れてしまった。
このタイミングで誘ってくるって事は、考えられるのは一つだけ。
「聞いてくださいよ~。佐藤さんってば、飲んでる時にさり気無く俺にボディタッチしてきて....もしかしてこれって脈有りですか!?」
「知らん。そんなのは本人に聞けよ。」
帰ろうと思ったのに、結局やって来てしまった会社近くの居酒屋。
相良行きつけの大衆場には、分相応のリーマン連中や、大学生やらで賑わいを見せていた。
しつこい押しに根負けした俺は、普段は絶対に飲まない頼まないと決めていた筈の安酒をちびちびと口に含んで、相良の独り言に適当に返答していた。
「私服も超可愛いし、何なら俺を誘惑するあざとさ....佐藤さんって意外と胸デカいんすよ。」
「そうかいそうかい良かったな~。付き合えたら、その秘宝を独り占め出来るぞー?」
「で、でもっ、俺は佐藤さんの胸に惚れたんじゃない!!」
「どうせ顔だろ。お前みたいな童貞ボーイ程、女の理想が高くなって、顔で選びがちだよな。」
「童貞って大きな声で言わないでください!!」
「さっきから声張り上げてんのはお前だろうが。」
俺は至って冷静だ。迎え酒した相良は、自分が思っていたよりも声を張り上げていて、公開処刑の自滅発言を連発すると、周りの客がクスクスと相良を見て笑っていた。
今更周囲の視線に気が付いたのか、薄ら赤かった顔が、茹蛸みたいになる。
早く帰りてーな。なんで俺は相良に付き合ってんだ?家では結が待っているのに....。
アイツ腹空かせてねーかな。一応食い物は冷蔵庫の中に用意してあるが、また自分で料理しようとして、包丁握ってたり....。
「―――――っ悪い相良、今日はマジで帰んなきゃなんねーだわ。」
「え?ちょっと瀬尾さん!?」
考え出したらキリがない。危ない手捌きで怪我でもしていたら、なんて悪い予感が過る。
上着と鞄を手に抱えながら、店を出た俺に、背後から相良が何やら叫んでいたが、それを無視して駅まで突っ走った。
そして落ち着かないまま、最寄駅に着いた俺を待ち構えていたのは、
「よう、昨日はイイ一発を有難うな。」
有り難うの言葉とは裏腹に、大層ご立腹な高級オーダーメイドスーツ。昨日とは色違いで洒落たカスタマイズの凛々しい男。
改札を抜けたら、昨日のヤベー奴が俺を出待ちしていただなんて....。
「えっと、どちら様でしたっけ?」
白を切って、その場から逃げようと試みるが、
「俺様の花嫁拉致った上に、俺様の後頭部を殴って、倒れた拍子にスーツに穴が空いちまってよ~。」
“てめぇは絶対ぶっ殺す”
突如伸びてきた男の腕が、俺の胸倉を掴むと、そのまま引き寄せられて、気付いた時には顔面に強打が加わっていた。
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