捨て台詞

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捨て台詞

「こんなことやってもお金にならないから」 結花は、描き掛けの女神の絵を私に投げつけるように渡す。絵の中の女神は、とび色の髪が中途半端に色塗りされた状態で右半分は白黒線のまま、胸元まである長いウェーブの髪が揺らめいている。 「そうだね…」 ぎこちなく頷く私に、 「ごめん、今日は彼氏と待ち合わせしてるし、明日はバイトだから」 スマホのスケジュール帳をタップして、結花は自分がいかに忙しいかこの先一週間の予定を、ひとしきりアピールして教室を出て行った。 私の手元に残されたのは、文化祭に結花と二人で個人名義で出す予定だった、詩画集の原稿。 (私だって塾もあるし就職組より忙しいんだよ) 毒づきながら、髪の右半分は色塗りされていない女神を見て、醜い棘が次々に溢れ出す。 (絵を描く方が大変だから、絵を先に貰ってそこに詩をつけるやり方にしたのに) (文化祭で何か出したいって言ったのは結花なのに、投げ出すんだ) (髪は、利き手側の方が塗りが面倒だもんね) (結局は、彼氏が出来たから辞めたんでしょ) 今まで楽しく制作活動をしていたのに、最後は「お金にならない」という正論で、私を真っ二つに斬り捨てた結花。込み上げる怒りに身を任せて、原稿の束を抱えて教室のゴミ箱に向かって歩き出す。 「このまま捨てたら、黒歴史丸見えか…」 くだらない独り言が、ほぼ無人の教室に響き渡る。クラスでは喫茶店の模擬店をやるから、その準備は別の日。今日残っているのは、自習をしている子や、電車待ちでやることが無くて、残ってお喋りしている子くらい。 原稿の束の中の女神と目が合う。さっきまで明るく微笑んでいた「彼女」は、憂鬱そうだ。 (色を無くした半分の髪に意味を持たせる…) 閃いた瞬間に、私は決めた。この女神の絵を最後のページにして、ここまでの絵で詩画集を終わらせる。絶対に諦めない、出品してみせる。 一編の詩をパソコンで書き上げて、印刷室に行き、一人黙々と製本作業をする。
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