プロローグ

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「分かっておる。それにもう既に前金は用意出来ておる」 そう言うと清彦が高級ソファーから腰を上げて、その位置から五メートル程離れた壁に埋め込まれている分厚い金属で出来た金庫のある方へ歩き出した。 そこに着くと、自分しか知らない数字の位置までダイヤルを回す作業を七回繰り返す。 「そう言えばこの金庫を人前で開けるのも久しぶりだな」 清彦が背を向けている間にレントが高級饅頭を黒い布で出来たマスクを半分程剥ぎ取って食べ、その後に少し冷えた緑茶を飲んだ。その直後、清彦が開け終わった金庫の中からジュラルミンケースを一つ取り出し、それをレントの目の前に置き、再び高級ソファーの上に腰を掛けた。 「これが前金一億円分入っているジュラルミンケースだ。一応、自分の目で確認してくれたまえ」 そう言われるとレントが紙幣カウンターを灰色の鞄から取り出し、金属の箱を開け、恐らく百万円分で纏めたであろう札束を手に取り、金を数え始めた。 そして、暫くその作業を見ていた清彦だがそれを止め、再び殺人計画書を手に取り読み始めた。 「しかし、改めて見ると本当に素晴らしい計画だ。まるで、手品の種明かしを見ているような気分になる」 再度、清彦がレントの殺人計画を絶賛したが、レントは目線を合わせず、一般家庭で持っているは少ないであろう機械を使い無言で黙々と作業を行っている。 山鍋清彦は大手興業㈱山鍋興業の最高取締役という社会的地位を持つ、今年で五十八歳になる初老社長だ。 この大手商社山鍋興業は清彦の父、清助が一代で築き上げた会社だ。 その跡取り息子は有名私立幼稚園からエスカレータ式で小、中、高、大と上がり大学卒業後は父親が社長という最大のコネでこの山鍋興業に入社、そして順調に出世し、父親が第一線から身を退けると直ぐに社長のポストに就任という経歴を持つ、典型的な同族企業の跡取りだ。 しかし、そんなエリート清彦でも大きな悩みを抱えており、それは殺人という法の中でも最悪の罪を犯してでも解決する事を最終的に選択した位なのだから一般人では考えられない大きな悩みに違いない。
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