ハンカチ

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「あなたみたいに私も仕事がしたいのよ!」 芽衣は、テーブルの食器を片付けながら、雅博にやや強い口調で言った。 「お前の銀行への復帰は、俺は許さないからな!」 雅博も負けてはいない。 芽衣は、梨沙が生まれてからずーっと専業主婦として子供を育て家庭を守って来た。 別に不満はなかった。 優しくて穏やかな夫。 稼ぎも悪くはないし、快適なマンションに住まわしてもらっている。 そんな芽衣へ最近、元同僚より仕事への復帰が持ち掛けられた。 元同僚の横山志帆。 彼女は、大学時代の友人で芽衣と一緒に大手銀行へ就職。 30歳そこそこで、ノンキャリではあるが本店の課長代理まで上り上がったエリートである。 本店からの誘い。 芽衣は、平凡な主婦で終わる自分の人生を思うと、とても魅力のある話である。 横山とは、年に数回は会っていたが、仕事の話よりふたりの共通の趣味であるカントリー関係の話がメインで、人形や木工細工を作ったりして楽しんでいた。 何故私を? 横山は芽衣の頭の良さを十分に知っている。 そして、これから挑む出世街道。 横山にとって芽衣は、自らをサポートしてくれる気心の知れた存在として必要であると考えていた。
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