ハンカチ

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「六年生の女の子が、なかなか地下豪では眠れなくて、いつも一緒に寝ていた人形を欲しがったそうだ。 でもな、その人形は西洋の青い瞳をした人形で、当時は敵国の人形、焼き捨てなければ非国民。 母親は、それを十分に分かっていたから子供には持たせずにいたんだ、戦争が終わるまでは・・・でもな、溜まり兼ねた母親は組長に相談したそうだ。そしたら、 大丈夫、うちの班なら皆、許してくれるから取りに行きなさい。」 山岸は、目頭が熱くなったのを堪えてさらに話を続けた。 「終戦の年だから昭和20年。梅雨入り前だからちょうど今頃の季節。横浜の爆撃は相変わらず激しかったが、母親が家まで人形を取りに行ったんだ。 辺りが薄暗くなる時間に。 子供も一緒に取りに行くと言って駄々をこねたけど、母親はどうにか組長に子供を預けて我が家へ向かった。 ところが、隙をついて子供は母親の後を追った。」 雅博は、嫌な予感がして山岸へ尋ねた。 「爆弾で殺られたのか?」 山岸は残りのビールを飲み干すと、 「機銃掃射!」 そう言うと、山岸は缶ビールの缶を握り潰した。 「機銃掃射・・・飛行機から低飛行で機関銃で射つ奴だな。」 力のない声で雅博は言った。
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