2人が本棚に入れています
本棚に追加
003.物持ち(2022.5.7 お題「買う」)
現実から身を守るために流していた音楽が、きみは光だとか、行かないでだとかと、いまの心境をいちいち言い当ててきてうざかった。ほんとうには振るえない暴力を差しむけるようにイヤホンを抜きとると、しとしとと降っているのだとおもっていた雨がおもいのほか強く地面を打ちつけていて、痛々しい雨音が耳に押し寄せてくる。傘はまたどこかにやってしまって持っていなかった。
こころも買いなおすことができればよかった。
おれは物持ちがわるいから、大事なひとのことも平気で失くしてしまう。
濡れた服が身体にへばりついてきもちわるかった。こんなにびしょ濡れになって、帰りの電車に乗れるのだろうか。けれど、駅はもうすぐそこに見えていた。
最初のコメントを投稿しよう!