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004.あなたへ(2022.6.4 お題「手」)
文字を書いたら小指の側面が汚れるのが苦手だった。定規をあてていてもまっすぐに書くことができず、まるでわたしは佳くない人間だと言われているみたいで、すこし悲しくなった。
正しい字が書けるあなたはいつも違う便せんを使っていて、いったいどこで見つけてくるのだろうと不思議だったけれど、出かけるたびに文具コーナーを眺めていたらしい。
「もうすぐ紫陽花が咲きますね」
紫陽花が淡く描かれている便せんに触れようとして、ふと、その指先がとまる。
「今度、ふたりで見にいきましょう」
そう言うと、あなたは無地の便せんを選んだ。もう書かなくてもいいのに、それでもあなたはわたしに便りをくれる。
切手の裏の、糊の味を忘れかけていた。
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