005.誤飲(2022.7.2 お題「洗う」)

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005.誤飲(2022.7.2 お題「洗う」)

 はい、と渡された飲みものの色にうろたえた。 「なにこれ」 「珈琲だけど?」  笑いをこらえきれないといった声色が耳に障る。たしかに珈琲牛乳のような色に見えなくもないけれど、筆先についた絵具をあらためた筆洗の汚れた水みたいに、かき混ぜたら青とかピンクとか、溶けきらなかった元々の色が浮かびあがってきそうなおっかない感じがした。  覚悟をきめてグラスに口をつける。甘いのだか渋いのだか訳の分からない味がして、吐きたくて、泣きそうになる。わたしたちは混ざりあわなければ、それぞれのまともさで、正しい居場所で過ごすことができるのに、それを選ぶことができない。  これが恋情だというのなら、人類はもうすぐ滅びるのだろう。
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