壺入り娘・幕羅家編

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壺入り娘・幕羅家編

    0  探偵・甘施(あませ)無花果(いちじく)の活躍を僕が綴るようになってもうじき三年、その小説もこれで五冊目となるけれど、きっと皆さんの中にはあのあまりに有名な白生塔(はくせいとう)での大量殺人事件(『桜野(さくらの)美海子(みみこ)の最期』を参照されたし)は知っていても甘施無花果シリーズを読むのは初めてだと云う方がいるんじゃないかと思う。  ご存知のとおり、甘施無花果という名の探偵は前述の事件において命を落とした。生存者は僕――塚場(つかば)壮太(そうた)ただひとりであった。  なので当然、現在僕が付き添っている探偵・甘施無花果は白生塔にて死亡した甘施無花果とは別人であり、正確には二代目・甘施無花果であるということをご了承いただきたい。  とはいえ、彼女はその外見、性格、言動、細かな仕草、どれを取っても初代と本当にそっくりだ。真黒なドレスに金色の長髪、真白な肌に大きな漆黒の瞳。気品溢れる凛とした(たたず)まい。どこか人間離れした、人形の如き姿。初代と面識があった者ならば一目見て「久し振り」と云ってしまうこと請け合いである。無論、探偵としての能力、その悪魔的な頭脳も確かなものだと断言しよう。  ただし、それで彼女が初代の血縁者なのだと判断するのはやや早計だ。二人の関係がどういうものだったのか、そもそも関係があったのかすら、何ひとつ明言されてはいない。初代がそうであったように、甘施無花果という探偵は出自も年齢も、その素性に関する一切が謎に包まれていなければならないのだ。  ゆえに、僕がどうして彼女と組んで活動するようになったのか、それもお教えすることはできない。  作家のくせに嘘をつくのが大の苦手である僕のことだから、ご容赦いただきたく思う。 ○登場人物  甘施 無花果 ―――― 探偵  塚場 壮太 ――――― 小説家  幕羅(まくら) ユイ ――――― 依頼人  幕羅 峯斎(ほうさい) ――――― ユイの祖父  幕羅 誓慈(せいじ) ――――― ユイの父  幕羅 維子(いこ) ――――― ユイの母  幕羅 ケイ ――――― ユイの兄  釧路(くしろ) ―――――――― 使用人
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