Chapter 8

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 エリは目を見張り、咄嗟に手を伸ばそうとしたが、その動きを止めた。 「……え……これ、夢?」 「夢じゃないし、嘘でもない。俺は画家になるよりお前を支えていきたい」  何をするべきなのかは分かっている。  もうためらうことはない。 「俺を信じるか、エリ?」 「信じてるに決まってるよ」 「言っとくけど、フランス行きはなしだぞ。お前に合わない依頼も受けない」 「え、でも……」  前に言われたことを思い出して、晴義は目を細めて笑った。 「俺の全部が欲しいんだろう? 友達として、恋人として。仕事のパートナーとしては? そういう意味で、俺を信じるか?」  エリはゆっくりと瞬いた。 「それって……ハルが僕の……」 「専属の個人ディーラーになる」  迷いなく言い切った。  画廊を構えず、一人で画家を売り出すのは生半可なことではない。なんの経験もコネもないとなれば無謀としか言いようがない。  だけどエリを守るにはこれしかない。  画廊のためでもコレクターのためでもなく、エリただ一人のために。 「もちろん、お前さえ――」  よければ、と言い終わる前に、ものすごい勢いで抱きしめられた。 「うん。うんッ、やろう! 二人でッ」  弾んだ涙声に安堵と愛しさが込み上げ、震える背中に腕を回した。 「泣くな、バカ」  広い肩に顎を乗せ、やれやれと息をつく。  肩越しに観覧車が見えた。ゆっくりと回り続ける赤いキャビン。  もう堂々巡りはしない。  守ってみせる。支えてみせる。  一途で心優しいこの男を。  そうすることで、他の全てを失うかもしれない。それでも、今度こそ前に進む。
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