Chapter 9

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「ハル? どうかした?」  エリが顔を覗き込んで尋ねる。 「いや、これからのことを考えてただけだ」 「不安?」  直球にそんなことを聞かれて少し驚いた。 「まぁ、多少は」 「大丈夫だよ。天才が二人もいるんだから」 「二人って、俺は……」 「ハルは努力の天才でしょ? あの観覧車の絵を見て、ぴったりだなって思ったんだ」 「え……」  ぴったりと言われても、悪いイメージが強すぎて複雑な気分になる。 「だって観覧車って地上に下りても、必ずまた空に向かってのぼっていくでしょ? だから僕は全然不安じゃない。ハルなら何度でも高くのぼっていくって知ってるから」  その言葉に目を見開き、信頼に満ちたエリの顔を見つめた。自分が堂々巡りだと思っていたものを、エリは何度でも巡ってくるチャンスだと言う。  その想いに胸が震えて、眦が熱くなるのを笑みで誤魔化した。 「……お前には、本当に、敵わないな」  この陽だまりのような優しさに、もう何度救われてきただろうか。  吸い寄せられるように晴義は顔を上げてそっとキスをした。  こうやって触れるのはフェア以来だなと思った途端、肩を急に掴まれてベッドに押し倒された。先ほどとは打って変わった真剣な眼差しで見下ろされる。 「な、なに、いきなり」 「まだハルの気持ち、ちゃんと聞いてない」 「……あぁ」  いろいろありすぎて、言ったような気になっていた。フェアでの言動ですでに分かっているはずなのに、わざわざ言わせたがるところがかわいくて口元が緩む。  エリの頬に手のひらを滑らせ、唇が触れそうな距離まで引き寄せた。 「好きだ、エリ」  全てを投げ捨てられる愛なんて存在しないと思っていたが、気づけばそれだけエリを大事に想っていた。  目の前で晴義を映す瞳が大きく揺れる。 「……僕だけのものになってくれる?」 「ああ、ずっとそばにいる」 「もう他の誰とも付き合わない?」 「当たり前だ」 「全部、僕に?」 「やるよ。だからお前もずっとそばにいろ」  くしゃりと泣きそうな顔でエリは頷き、わずかな距離を埋めて唇を重ねてきた。
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