360人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
「ハル? どうかした?」
エリが顔を覗き込んで尋ねる。
「いや、これからのことを考えてただけだ」
「不安?」
直球にそんなことを聞かれて少し驚いた。
「まぁ、多少は」
「大丈夫だよ。天才が二人もいるんだから」
「二人って、俺は……」
「ハルは努力の天才でしょ? あの観覧車の絵を見て、ぴったりだなって思ったんだ」
「え……」
ぴったりと言われても、悪いイメージが強すぎて複雑な気分になる。
「だって観覧車って地上に下りても、必ずまた空に向かってのぼっていくでしょ? だから僕は全然不安じゃない。ハルなら何度でも高くのぼっていくって知ってるから」
その言葉に目を見開き、信頼に満ちたエリの顔を見つめた。自分が堂々巡りだと思っていたものを、エリは何度でも巡ってくるチャンスだと言う。
その想いに胸が震えて、眦が熱くなるのを笑みで誤魔化した。
「……お前には、本当に、敵わないな」
この陽だまりのような優しさに、もう何度救われてきただろうか。
吸い寄せられるように晴義は顔を上げてそっとキスをした。
こうやって触れるのはフェア以来だなと思った途端、肩を急に掴まれてベッドに押し倒された。先ほどとは打って変わった真剣な眼差しで見下ろされる。
「な、なに、いきなり」
「まだハルの気持ち、ちゃんと聞いてない」
「……あぁ」
いろいろありすぎて、言ったような気になっていた。フェアでの言動ですでに分かっているはずなのに、わざわざ言わせたがるところがかわいくて口元が緩む。
エリの頬に手のひらを滑らせ、唇が触れそうな距離まで引き寄せた。
「好きだ、エリ」
全てを投げ捨てられる愛なんて存在しないと思っていたが、気づけばそれだけエリを大事に想っていた。
目の前で晴義を映す瞳が大きく揺れる。
「……僕だけのものになってくれる?」
「ああ、ずっとそばにいる」
「もう他の誰とも付き合わない?」
「当たり前だ」
「全部、僕に?」
「やるよ。だからお前もずっとそばにいろ」
くしゃりと泣きそうな顔でエリは頷き、わずかな距離を埋めて唇を重ねてきた。
最初のコメントを投稿しよう!