Chapter 9

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「大丈夫?」  エリが心配そうに顔を覗き、自身を引き抜いて抱き合うように横になった。 「ハル?」 「……ん」  エリの肩に顔を埋める。大丈夫だと言うのも億劫だし、あんなに乱れたのは初めてで、遅れて羞恥心が湧いてきた。引かれていたらどうしようと急に不安になってくる。  だけど確認するよりも先に驚くほどの力で抱きしめられた。 「な、に……苦しい……」 「だって、幸せすぎて、これが全部夢だったらって思うと怖くて……」  なんだ、と安心して口元をほころばせた。  心配する必要なんてなかったらしい。 「夢じゃない。どこにもいかないって、約束しただろう?」  なだめるようにエリの腕をさすると、ゆっくりと力が抜けていった。視線を絡めて静かに笑い合い、どちらからともなく唇を重ね、柔らかいキスを交わした。    *  それから少し眠ってしまったらしい。  目が覚めると部屋は深いオレンジ色に染まっていた。  まだベッドだったが、体は綺麗に拭われている。背中から抱きかかえられ、目の前には手を覆いかぶさるように指を絡めたエリの手があった。 「起きた?」  くぐもった低い声が耳をかすめる。 「ん、悪い、寝てた」  いいよ、と言うように、手に力がこもる。  大きくて暖かい手は触れているだけで安堵感に包まれる。 「ねぇ、ハル」 「ん?」  静かに切り出したエリはそのあとしばらく黙り込んだ。  何が知りたいのか、なんとなく分かっていた。同じものを見て、同じものを感じている気がしたから。  二人の重なった手。夕日の光を浴びるイーゼル。床に伸びる影。この角度からこの光景を見るのは初めてなのに、なぜかとても懐かしい。 「……やっぱり、いいや」  消え入りそうな声に晴義は何も答えず、代わりに指先に軽く唇を押し当てた。
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