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「大丈夫?」
エリが心配そうに顔を覗き、自身を引き抜いて抱き合うように横になった。
「ハル?」
「……ん」
エリの肩に顔を埋める。大丈夫だと言うのも億劫だし、あんなに乱れたのは初めてで、遅れて羞恥心が湧いてきた。引かれていたらどうしようと急に不安になってくる。
だけど確認するよりも先に驚くほどの力で抱きしめられた。
「な、に……苦しい……」
「だって、幸せすぎて、これが全部夢だったらって思うと怖くて……」
なんだ、と安心して口元をほころばせた。
心配する必要なんてなかったらしい。
「夢じゃない。どこにもいかないって、約束しただろう?」
なだめるようにエリの腕をさすると、ゆっくりと力が抜けていった。視線を絡めて静かに笑い合い、どちらからともなく唇を重ね、柔らかいキスを交わした。
*
それから少し眠ってしまったらしい。
目が覚めると部屋は深いオレンジ色に染まっていた。
まだベッドだったが、体は綺麗に拭われている。背中から抱きかかえられ、目の前には手を覆いかぶさるように指を絡めたエリの手があった。
「起きた?」
くぐもった低い声が耳をかすめる。
「ん、悪い、寝てた」
いいよ、と言うように、手に力がこもる。
大きくて暖かい手は触れているだけで安堵感に包まれる。
「ねぇ、ハル」
「ん?」
静かに切り出したエリはそのあとしばらく黙り込んだ。
何が知りたいのか、なんとなく分かっていた。同じものを見て、同じものを感じている気がしたから。
二人の重なった手。夕日の光を浴びるイーゼル。床に伸びる影。この角度からこの光景を見るのは初めてなのに、なぜかとても懐かしい。
「……やっぱり、いいや」
消え入りそうな声に晴義は何も答えず、代わりに指先に軽く唇を押し当てた。
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